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エンジニアの軌跡

「僕がやりたいのは『問題解決』なんです」七島偉之(株式会社メルカリ)〜Forkwell エンジニア成分研究所

「僕がやりたいのは『問題解決』なんです」七島偉之(株式会社メルカリ)〜Forkwell エンジニア成分研究所

社内のエンジニアのバリューを高める仕事です

――読者のどなたもご存知の会社と思いますが、改めて七島さんからご紹介いただけますでしょうか。

七島 はい!メルカリは、スマホから誰でも簡単に売り買いが楽しめる日本最大のフリマアプリです。

ミッションとしては「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」を掲げています。世界的に、とあるようにゆくゆくは世界的な規模でいろいろなものを取引できる場所を作りたいです。今は日本とアメリカでやっていますが、もっとグローバルなサービスを目指しています。

――その中で、七島さんはどんなお仕事をされているのでしょうか?

七島 私は「Engineering Office」というチームに所属しています。エンジニアの組織的な課題を解決するチームで、主にエンジニアのバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。プロダクトの開発には直接的には関わらず、エンジニアチームを強くすることで、間接的にプロダクトに貢献するチームです。

現在は、主にエンジニア採用に関わっていますが、メルカリの技術ブランディングを強化するために技術コミュニティへ貢献したり、メルカリのOSS利用とか公開の仕方を整備する「OSS推進室」で活動したりと様々な活動をしています。

この7月から、エンジニアの新卒採用も担当することになり、「Talent Aquisition」という人事のチームの中の新卒採用チームと組んで、メルカリの新卒採用をより強化していく役回りを担っています。前任から新卒採用を引き継いで以降、「メルカリの新卒採用はどうあるべきか」を毎日考えていますね。

――今後のメルカリさんの命運を握ってらっしゃる部署の一つですね。

七島 重要な役割を担っているとは自負しています(笑)。こういうことをエンジニアがする専属のチームがある会社ってあんまりないと思います。「強いエンジニアがいればいい」というだけでなく、チームとして開発し、チームとして最大の価値を出す。

エンジニア採用に困っている会社がたくさんある中で、そのエンジニアを間接的な部門に配属する意思決定をする。すごい決断をする会社だな、と思っています。

役割的には、人事や広報、モノによっては労務みたいなことに近いところをエンジニア目線で考えたりすることがあります。もちろんコーポレート部門はあるので、僕らの技術だったりソフトウェア開発的な観点と人事などの専門職とが協力する事によって、より精度の高い「あるべきエンジニア組織」が実現しやすくなるのかな、と思っています。

――七島さんご自身は、現在は手を動かす機会が少ないのでは?

七島 ほぼないですね。開発に関しては、エンジニアリングを忘れないようにするための個人として勉強がほとんどです。たまにプログラミングをするのですが、生産性向上のための自動化をちょろっとやるくらい。

――エンジニアとして、忸怩たる思いはありませんか?

七島 僕は、あんまりないんですよね。もちろん、(コードを書きたい)思いはあるんですけど。

僕がやりたいのは、広い言葉ですけど「問題解決」なんですね。技術とかエンジニアリングは、問題解決の手段として有効な手段の一つ、と捉えています。問題解決全般に貢献できているなら、それはそれで良いかな、と。

メルカリには、僕より圧倒的に優秀なエンジニアがたくさんいます。僕が彼らと張り合うよりも、彼らのバリューを増幅させ、推進させる役割の方が価値が出せると思ったので。この役割は、僕に向いていると思います。

入社から2カ月で、テックカンファレンスの主催者に。

――入社されて、約2年ですね。これまでメルカリさんで経験した仕事で、一番印象的なものはどれですか?

七島 いい加減、他の記憶で上書きしたいんですけど(笑)。入社してすぐ「Mercari Tech Conf(MTC)」の主催をしたことですね。2017年8月1日入社で、開催が9月30日(笑)。

――とんでもないスパンですね(笑)。

七島 入社して間もないのに全社を巻き込んで、しかもメルカリ初のテクノロジー、技術に特化したカンファレンスをやる、という。

カンファレンスを用意するのに2カ月とか、かなりぶっ飛んでるんですよ。普通は1年くらい前から準備するんですが、2カ月。当時、メルカリの新入社員は全体定例で自己紹介をしてたんですけど、僕は自己紹介の前にプレゼンする時間をもらって。

「メルカリテックカンファレンスをやります! 皆さんの協力が必要なんです、よろしく!」って言ってから「初めまして、新入社員の七島です」って自己紹介をする、という感じでした(笑)。

――聞くだけで胃がキュッとなるような状況ですね(笑)。

七島 もうその2カ月間は、ホントに死ぬ気でやりましたよ。とにかく、社内のいろいろな人に「こういう事をやりたいです、ご協力お願いします」「何かいいアイデアないですか」と言って回って。

そもそも社内でやっている事のキャッチアップも同時にやらないといけなかったので、「どんな事やってるんですか?」「これMTCでやれませんか」とか、ひたすらいろんな人に1on1してもらって。結果、すごくよいカンファレンスにすることができました。これはもう、一番記憶に残っています。

――なるほど、それは強烈な経験ですね。

七島 そうですね、2年仕事していて最初の2カ月の経験がずっと僕の仕事を代表している事が、ちょっとアレだなと思っていますが(笑)。もっとドデカい仕事をして上書きしたいんですけど、特殊過ぎて上書きできないのが悩みです(笑)。

――そうしたら、次は同じくらいのスパンで、海外でカンファレンスをやるとかですかね(笑)。

七島 そうですね。そうそう、海外のカンファレンスもやりたい、とやっていたんですが、今は役割が変わって。

最初の1年半くらいは技術ブランディングという役割だったのでカンファレンスを主催したり、メルカリのエンジニアリングブログを盛り上げるとかをやっていたんです。

今年に入ってからは、どちらかというと組織の中身の解決というか。強いエンジニア組織をするためには、良い採用をして、強いエンジニアに仲間になってもらう、という事でエンジニア採用にフォーカスをしています。海外でデカいカンファレンスをやるのは、次の機会になりそうですね。

――すごいですね。過去のご経歴で、今に一番生きているものを挙げるとするとどれになりそうですか?

七島 一番生きている経験……難しいですね。どれも生きているので。大学で研究した経験があって、コンサルタントになって、野良エンジニアという屋号のフリーランスをやって、スタートアップにジョインして。そのどれもが僕の経験に生きているな、と思っています。

なので、僕はマルチな経験をして、その中で僕の得意なこと、自分の得意な領域の組み合わせで他の人との差別化を図るというか。

例えば「この技術一本を積み上げて1位になる」というよりはいろいろ広く薄くできるタイプなので、それで生きていく人なのかな、という風に思っています。「強い器用貧乏」みたいな人が向いているかな、と。

山口との2拠点生活を続けた理由。

――前職のスタートアップでは、山口と東京の2拠点生活をされていたと伺っています。

七島 そうですね、Reproというモバイルアプリ向けのスタートアップのときに山口との往復生活をしていました。今年の3月で、それは終えています。

当時はとにかくReproに入りたくて。ただReproのメンバーが優秀過ぎて一度は断られているんですよ、僕の実力が足りなくて。ただ、どうしても働きたかったので、「とにかくフルコミットします、1カ月間のコミット具合を見て決めてくれ」とお願いして。

幸い、それからのアピールが実って「Reproにおいでよ」とお声掛けをいただきました。ただ、スキルが足りない状態で入ったので、フルコミットの状態を維持する必要がありました。

そのため、妻のご両親の所に家族がお世話になり、子育てをヘルプしてもらい、僕は東京から定期的に山口に帰る。そういう生活をやってたんですね。

ただ、さすがに家族もいるので「2年限定で」という話で約束していたんですけど、なんだかんだダラダラと3年半くらいになって。

その期間があったおかげで自分を研鑽し、成長することができました。ただ、せっかくメルカリという会社に入ったし、子どももいるから「家族一緒に戻ろうね」という事になって、4月から家族が関東に戻ってきています。

――いま、お子さんはおいくつなんですか?

七島 7歳、4歳、0歳です。保育園もなんとか入れました。

――それは良かったですね。3人だったら大変ですもんね。

七島 そうですね、今はお兄ちゃんも小学校に入ってだいぶ楽になりました。

「言語化できないから捨てる」はもったいない。

――続いて、ご自身の成長のために日々行なっていることを教えてください。

七島 いいと思ったことには本業じゃなくてもいろんなことに首を突っ込む、ですかね。あまり整理できてないですけど。

仕事だとどうしても直感的に良いと思ってもコスパとか効果の説明が難しいからできない、みたいなことっていっぱいあると思うんです。

そういうのを無視して自分の仕事に集中した方が評価に繋がりやすいと思うのですけど、一定の割合で「成果になるか、意味があるかもわからないけどこれはやるべき」というものを拾うようにしています。

――変に自分の可能性を決めつけない、狭めない。

七島 そうですね。言語化できてないだけで、脳のどこかで過去の経験や知識と繋がっているはず。「言語化できないから捨てる」のはもったいない。そういうものを、一定の割合でやってみるということをしています。

――最近「首を突っ込んだ」案件はどんなものがありますか?

七島 社内の若いエンジニアが、海外登壇する事になったんですね。彼のプレゼンを「すごいプレゼン」にするためのチームというか部活動みたいなのをやりました。

コンテンツのレビューをする人を巻き込んだり、英語のチェックをやってくれる人を巻き込んだり、デザイナーさんに見てもらってレビューしてもらったり。「せっかく登壇するんだったら、最強の海外登壇にしよう」みたいな感じで、そのメンバーとチームを作りました。

今思うと、メルカリが世界的にプレゼンスを発揮するために「海外登壇」を積極的にしていくことは重要で、その登壇を最大限活かすにはどういうことをすればいいのか?みたいなことを検証したかったのかなと思います。

あと、2019年6月にSwift UIというAppleのプラットフォームのUIを開発するための新しい手法が出たんですけど、そのSwiftUIを使ったアプリを開発して結果をオープンソースとして公開するプロジェクトを実施しました。

新しい技術はいきなりプロダクトに投入するのは難しいのですが、エンジニアとしては早くキャッチアップしたいんですよね。そこでさっき出たMTCのカンファレンス用アプリ、もともとFlutterという別の技術で作ったものなんですけど、せっかくだったらSwift UIを使って作り直し、その結果もオープンソースとして公開するプロジェクトを立ち上げました。

――すごいですね。

七島 今の業務には全く関係ないんですけど(笑)、それをやる事によって最新技術を社内のエンジニアのメンバーが試せる遊び場にできる。新しい技術を使いたい欲も満たせるし、成長にもつながるし、オープンソースとして公開する事で世の中のエンジニアがそれを参考にして学ぶことができる。

そういうのを「やろうぜ」と言ったら、社内の10人くらいが「やりたい!」と言ってくれて。僕は開発に参加していないんですけど、Pull Requestのマージの量とか見るとドンドン開発が進んでいてますね。そういうプロジェクトをやっています。

――凄いですね。謙遜されていますけど、社内にいろいろな好影響をもたらしてますね。

七島 個人的には、もっともっといきたいですね。ただ、難しいのがメルカリのスケールのスピードがすごく速いのと、世界中からメンバーを集めているので、社内でも英語メインの割合が大分増えてきていることですね。僕は英語がそれほど得意ではないので、彼らに伝えるのがなかなか難しくて。

そこを突破してもっと広範囲に影響を与えられるキャラになれればいいな、と思っています。

あ、もう1個思い出しました。社内ポッドキャストを、3月から1週間に1度やっています。

――社内ポッドキャスト!

七島 そうです。これだけ会社が大きくなると、いろいろな部署が増えて「この人何やっているんだろう」とわからない人が増えてくるんですね。顔を全部覚えられる規模を超えているので。

それで、もう一人のパーソナリティとペアになって、毎回いろんな部署の人をゲストに呼んで、仕事や趣味の話をするんです。僕らも話を聞きたいし、お互い知らなかった人同士が興味を持って、社員同士が繋がると面白いんじゃないかなと思って。

思いつきで始めて、もう30回弱続けています。なんか、余計な事をやり過ぎて、本業は何をやっているのかって感じですね(笑)。

必要としてくれる会社や役割は、必ずある

――ここからは、七島さんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「会社愛」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。

・専門性向上:2

問題解決ができれば、手段は何でもいいと思っているので。一つの専門性を突き詰めるより、複数のジャンルを知っていて、適切に手段が得られる状態を求めています。

・仲間:5

圧倒的にこれなんじゃないか、という感じで。「この人すげえ」と思える人と働ける事が全てを癒やす、と思っています。お給料は生きていけるくらいで良いですし、事業内容に価値があると納得できればそれに越したことはないですね。

・お金:2

納得できない仕事をして高いお給料をもらうくらいだったら、そんなに多くなくていいからやりがいがほしいかな、という感じなので。

・事業内容:4

さっきちょっと出ましたけど、価値のある事業だと納得できるとやる気が出るので、大事だと思っています。

・働き方自由度:4

だらしないので、「10時出社! 遅刻すると減給!」みたいな感じだとお給料がなくなってしまいます(笑)。

――ナンセンスですよね、大体の会社は、終業をきちっと守っていないわけで。始業「だけ」きっちりというのも。アポがあれば別ですけど。

七島 きちっと管理できれば良いんですけど、集中力が出る波とか体調の波とか色々あると思うので、無理に合わせるよりは波に合わせた方が生産性が出ると思っているので。

自分のパフォーマンスを出すためにも、ある程度自由な状態が良いです。あとは裁量があるというか、自分が「これこれやりたい」と言った時にOKをもらいやすい状態だと価値を出しやすいので、そういう環境に居られると良いな、と思います。

――という意味では、貴社はうってつけな環境ですね。

七島 そうですね(笑)。

・会社愛:3

――ちなみに、この連載でいうと会社愛が3というのは高い方です。

七島 そうなんですか? ここは、事業内容と似ている感じですね。「好きだな」と思える会社にいた方がやる気が出るよね、という。

頭で考えて良い/悪いというより、直感的に好き/嫌いでパフォーマンスが左右されるので。一緒に働きたいと思える人と、働きたいと思える事業をやっている会社で働ければ何でもいいや、という感じですね(笑)

――ありがとうございます。最後に、キャリアに悩んでいるエンジニアの方に向けてメッセージを頂けますでしょうか。

七島 悩んだんですが、断片としては、自分がやりたいと思っている事をやると良いんじゃない、というのがひとつ。

自分がやりたい事をやる、というのと自分の特性を知るというのか、強みとか弱みを知るというところに近いと思うのですが、それが会社や業界にとってどうハマるのか、というのが大事だと思っています。

僕で言うと「キャリアをどう考えているんですか?」って聞かれるのが一番困るんですよね。というのも、今までもいろんな事をやってきているし、エンジニアなのに開発をやっていなくて組織の事をやっていると言われた時に「キャリアどうなんですか?」って聞かれても「俺もわからん」というのがあると思うんですけど(笑)。

少なくとも自分はそれが価値があると思っているからやれるし、少なくともメルカリはそういう人を求めているから、業界的にはニッチでもそれを求める会社はあった、という事だと思うんですよね。

だとしたら、これがメルカリ以外で全くないという事は無いと思うので、ニッチだけどハマる所は将来的にはあるだろうと思っています。だからこそ、今の仕事とか生き方に不安に感じずにできると思います。

「エンジニアとしてのキャリアはこうあるべき」というべき論に接すると、そうじゃない事をやっている人は不安になることもあると思います。けれど、世の中は広いですから。

会社も多いし、何でもありなので。自分が「価値がある」と思ってやっている事があるなら、必要としてくれる会社や役割は必ずあると思っています。その両面の視点で見れば、適した仕事とか職がきっと見つかるんじゃないかな、と思います。

――本当に、面白い話をありがとうございました。

<了>

ライター:澤山大輔

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