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「メルカリ」が乗り出した暗号資産のコモディティ化。エンジニアリングの力で、誰もが使える”インフラ”に(メルコイン/株式会社メルペイ 伊藤雄貴・飯野雅希)

日本では、まだまだ資産運用に興味を持つ一部の人のためのものという印象の強い暗号資産だが、世界市場は成長の一途を辿っている。アメリカのグローバル市場調査会社、アライド・マーケット・リサーチ(Allied Market Research)によると、暗号資産市場の規模は、2030年までに現在の約3倍、49億4000万ドル(約5430億円)に達するという。誰もが暗号資産を気軽に取り扱う未来がやってくるのか? 日本でも暗号資産をめぐる動きが活発化している。なかでも注目を集めているのが、フリマアプリ大手のメルカリが暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を行うことを目的として設立した「メルコイン」だ。

スマホ決済サービス「メルペイ」を成功させ、カスタマーファーストでオープンなインフラを提供してきたメルカリグループが取り組む暗号資産事業について、株式会社メルペイアーキテクトチームのバックエンドエンジニアである伊藤雄貴氏、SREチームでテックリードを務める飯野雅希氏に話を聞いた。

メルカリが暗号資産関連事業に「満を持して」乗り出した

今年4月、メルカリは、暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を行う子会社、株式会社メルコインを設立した。

メルカリの売上金のビットコインでの受取り機能やメルペイでの決済・送金機能、与信、暗号資産・資産運用の機能を一つのウォレットで提供するなど、よりシームレスに金融サービスを利用できる環境の構築を目指して誕生したメルコインは、ある意味「満を持して」登場したサービスでもある。

というのも、暗号資産関連事業の構想自体は、2017年にはすでに社内であった。先進的な事業の取り組みを検討する「よげん会議」やR4Dという外部の企業・教育機関と共同で社会実装を目的とした研究開発組織でトピックに上がり、研究が進められていた。

2018年当時はビットコインが不正流出した『コインチェック事件』が起きた年でもあり、暗号資産への世間の見方が厳しくなった年でもあった。

「自分は、基礎理論をちょっと知っている程度だったんですけど、『新しいもの』を使ってあるべきものをつくり出そうとしているのは、うちらしいなと思って見ていました」

当時、また現在も兼務するメルペイのアーキテクトチームでコードをガシガシ書いている、と語る伊藤雄貴は、”メルコインの種”誕生を「社内のカルチャーとしておもしろい」と、その時点では当事者ではなかったものの注目していて見ていたという。

一方、メルチャリ事業に従事していた飯野雅希は、SRE畑を歩んできたこともあり「いざ、やるぞとなったら関わっていかなければいけない事業だな」と思って見ていたという。

「確実にシステムの信頼性が求められる分野ですし、インフラサイドから前職では、決済と暗号資産に関わっていたので、『やるぞ』となったら確実に自分の仕事に関わってくると思っていました」

スピード感と安定感 現場と経営層の絶妙なバランス

スピーディーに”よげん”を実現させてきたイメージのあるメルカリだが、国内のプレイヤーが続々と暗号資産事業に参入していくなかで、「即始動」とはならなかった。

「暗号資産を取り巻く状況もいろいろありましたが、成長産業であることは間違いないので一気に周りを見ずに突っ走るという選択肢もあったと思います。実際そういう企業も結構ありましたよね(笑)。2021年の4月にメルコイン設立というのは、あえてちゃんと考える時間を取ったということだと思っています」

先進性と安定性。メルカリグループが急成長を遂げつつ、推進力を失わない理由はさまざまあるが、SREチームでテックリードを務める飯野は、「社内にいて傍目で見つつ感心した」という。

「伊藤さんとかはその典型ですけど、最先端の技術を駆使してエンジニアリングで新しいものを生み出していく現場の力と、先を見据えた経営層の舵取りのバランスが絶妙な気がしますね」

最先端をつくり出す側の伊藤も、エンジニアの挑戦と、経営層の先読みがマッチしていることのメリットを感じているという。

「早く出すことも大事だと思いますが、お客様が安心・安全にサービスを使えることはもっと大事。メルコインに関しては、もはやそれが機能の一つだと思っていて、ここに関してはじっくりつくっていくことも重要かなと思っています。その点は、経営陣が予想したとおりに進んでいるのかなとは思います」

暗号資産のコモディティ化 メルカリグループだからできること

メルペイ代表取締役CEOであり、メルコインの代表取締役でもある青柳直樹氏も、メルコイン事業について「3年がかりの”伏線回収”」と発言しており、メルコインがどういう方向性でサービスを構築していくのかは業界のみならず、メルカリのお客様を初めとする「暗号資産に馴染みのない層」にも大いに関係してくる。

ここからは、二人に問いをぶつける形で話を進めよう。

── メルコインの事業としてはどんなことを始めるんですか?

飯野 まず日本国内向けに暗号資産の取引所のスタートを準備しています。日本で暗号資産といっても、まだまだまニッチというか、限られた人、例えば投資を日常的にやっているような人たちのものというイメージが根強いのですが、そこの間口を広げる役割を担いたい。メルカリ、メルペイのお客様に、ハードルを下げた状態で暗号資産に触ってもらうために取引所を立ち上げようとしています。

伊藤 もっとコモディティ化して、最終的には暗号資産を、もっと社会的なインフラに近づけたいという思いはありますね。

── そういう意味では、マンスリーアクティブユーザー1954万というメルカリ、利用者が1000万人を突破したメルペイ同様、C2Cのマーケットプレイスを通じて、暗号資産が私たちの身近になっていく予感はしますね。

伊藤 まさにメルカリは、そのエコシステムの中で動いていて、売上金がすでにある状態ですよね。メルペイには”ふえるお財布”というコンセプトもあるんですけど、もし暗号資産が気軽に使えたら、また違う可能性が生まれるんじゃないかと思うんです。イケてるUXを提供して、とっつきにくかった暗号資産に親しみを持ってもらうみたいなことができるんじゃないかと思っていて。

「あるべきもの」をつくるために「守るべきもの」を自分たちでつくっていく作業

── お二人は今年4月の新会社設立前にジョインされたということですが、それまでのキャリアを教えてください

伊藤 現在も兼務という形ですが、メルペイのアーキテクトチームで、メルペイが採用するマイクロサービスの設計や基盤となる技術の導入などを行っています。現在メルコインでは、システムの全体設計をまさにやっているという段階ですが、基本的にはメルペイで培ったマイクロサービスの知見をベースとして進めています。

 メルペイの開発に手をつけたときから考えると、当時はなかった技術やクラウドへの移行などの変化も激しいですよね。メルコインで求められるシステムの堅牢性やセキュリティの要件は高いのですが、これまでなかった技術を使って“あるべきもの”をつくっていく作業は楽しいですね。

── 飯野さんはメルチャリからこちらにいらっしゃったんですか?

飯野 そうですね。メルチャリのSREチームでプロダクトのリライアビリティーに責任を持つ仕事をしていまいした。現在はメルペイのSREも兼務しながらなのですが、そもそもメルコイン自体がメルペイから発展して子会社したこともあり、メルペイの中でインフラの部分をどう整えていくかというところのを見る形でプロジェクトの最初の1人として今年の2月に入りました。

── 決済サービスであるメルペイもセキュリティ含めかなり高い要件を求められると思いますが、暗号資産を扱うメルコインは、メルペイとはまた違う難しさがありますか?

飯野 セキュリティもそうですし、コンプライアンスとして守るべきものっていうのがすごく多いんですね。決済だと、監督官庁から「これ守ってください」みたいなリストが明示されているのですが、暗号資産にはわかりやすいガイドラインもない。

「守るべきもの」を自分たちで定義しつつ、かつ自分たちのサービスをマイクロサービスを使ってどうやって実現するかに腐心しています。

「技術をどう事業に活かせるかを考えるのが楽しい」(伊藤)

── 伊藤さんの言葉の端々に「技術大好き」というのが溢れているように感じるんですが、コードを書いたりエンジニアリングしているのが楽しいって感じですか?

伊藤 たまに「なんでそんなに好きなんですか?」と聞かれることがあるんですけど、わからないんですよね。だから、「本当に好きなことは理由がないから好きなんだ」ということにしているんです(笑)。でも結構早い段階からコンピューターに触れる環境があって、そこでプログラミングするのが好きで、延々とやっていたというのはありますね。大学でコンピューターサイエンスを専攻して、やっぱり好きなことを仕事にしようと思ったんですね。

 自分は、嫌いなことをやると極端にパフォーマンスが出ないタイプなので、好きなことをやってご飯を食べていけたらいいなという感じですね。通勤時間でもコード書いているくらいなので、楽しく遊んでいるのにお金がもらえているような状況で、ありがたいです(笑)。

── 新しい技術を取り入れるのも、学ぶのも好き?

伊藤 新しい技術が好きというより、知らないことを学ぶのが好きでなんですね。新しいものも結構温故知新というか、例えばいま流行っているサービスメッシュの技術とかコンテナの技術とか、Linuxのカーネルとどう関わってみたいなところでいうと、古い技術と全部つながってくるんですね。エッジな技術も基盤となるところは古い技術と関わりがあってそういうのもおもしろい。

 コードを書いているときも楽しいし、新しい技術を使ってどう事業に活かせるか、どう貢献できるものをつくれるかみたいなのを考えるのはもっと楽しい。それも含めて全部エンジニアリングかなと思っています。

── 飯野さんはどんな経歴を歩まれてきたのでしょうか?

飯野 大学は情報系だったんですが、なんとなくインターンに行き始めたら、「あれ、なんか結構面白い」みたいな感じでした。KLabでインターンをしていたのですが、新卒ではベンチャーに行って、サーバーサイドをがっつりやってからもう一度KLabに行って、サーバーのリード、フロントのリード、ネイティブと、ぐるぐるいろんな立ち上げに関わってインフラ以外はそこで経験しました。

 充実感はあったし、勉強にはなったんですけど、「何かが足りないな」と思っていて…。それが何かしばらくわからなかったんですけど、家族とか友達とか身近な人に使ってもらえるものがつくりたいなという欲求が出てきたんですね。そこから、みんなが使える決済サービスに関わるところに移ってインフラを見るようになって、いまの職種の方向に進んでいった感じです。

「SREは本番のシステムが生きていることがもうすべて」(飯野)

── SREはそれほど古い考え方ではないですが、SREのスペシャリストという感じがします。

飯野 エンジニアには伊藤さんみたいなすごい人がいるんですよ(笑)。最初はちょっとびっくりしましたけど、自分の生存戦略みたいなもの考えて、すごく頭ひねって考えた結果が、10年かけてゼネラリストになってからスペシャリストになったらいいんじゃないかってことなんです。ウェブ系、SNS、メディア系、ゲーム、決済、モビリティ、アドテックでフロント、サーバー、インフラ、ネイティブと毎回ちょっとずつ違うことをやって、メルペイの決済、メルコインの暗号資産は2周目に突入していて、結果、いまやっているところと、SREでインフラをという感じですね。

── SREはメルコインの中でもかなり重要な役割だと思うのですが、普段仕事をする上で気をつけていることはどんなことですか?

飯野 SREにとっては、とにかく本番のシステムが生きていることがもうすべてなんですね。お客さまが「ちゃんと使える状態」を保つことに責任を持っているので、そこは守りつつ、どこまで攻めていけるかということを常に考えています。

 プロダクトには日々、小さな問題が起きていて、それをすべて把握しているのってSREだけなんですね。すべてのエラーも見てますし、障害もチェックしてますし、対策までもっていかなければいけない。

 SREに関係しているかわかりませんが、自分は物事を考えぬくタイプで、順序建てて土台をつくる、準備をするのが好きなんです。自分の中では何事も「どれだけ準備ができたか」が大切だと思ってて、業務内外でも”準備命”な気質なんですよね。

メルコインは社会を豊かにする「価値」を提供する存在へ

── メルコインは、2022年のサービスインを目指しているそうですが、どんなサービスにしていきたいか、メルコインのサービス提供、普及によってどんなことが起きると思っていますか?

伊藤 暗号資産を身近なものにするためには、メルカリ的ないい部分を出して、最高のUXでわかりやすく、使いやすく暗号資産を使えるサービスを提供していくというのが一番我々にできる部分かなと思っています。ゆくゆくはある種のインフラのように使ってもらえる。それを通じて社会を変えていく、チャレンジングな試みだと思っています。自分の究極的な思いは、「自分を豊かにすること」なんです。自分を豊かにするためには、社会を豊かにするのが近道かなと思っていて、自分と他者を含めた社会に”あるべきもの”を提供していくのはかなりおもしろいですね。こういう立ち上げ中のカオスな状況もおもしろいし、ここに関われるのはいまだけなのでエンジニアの人たちには「乗り遅れるな」という感じもありますね。

飯野 日本では普及が遅かった決済サービスも、最近では自分の親も使うくらいだいぶ浸透してきたなと思うんですね、メルコインもやっぱり自分の親が使うくらいにするのが、自分の中の最終目標です。暗号資産についての会話が親と普通にできるようになるといいなと。

 プロダクトの目標としてはとにかく間口を広げてみんなが当たり前に使えるものにしていく。立ち上げから関わって、メルカリ、メルペイレベルでみんなに使ってもらえるものをつくりたいというのは常にあって、立ち上げから運用、拡大まで全部に関わるというのが今のところの密かな野望です。

 自分がやってきたことが”誰かの価値”になるのはやっぱり嬉しい。会社や同僚、くらいなんとという限定的な人に対する価値ではなく、そこを越えて自分が知らない人たちにさえ、その価値が提供できるのが一番うれしい状態だと思っています。

ライター:大塚一樹


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