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Forkwell は ITエンジニアのための転職サービスとして、これまで10年間、プロフィール登録時に性別情報を取得してきませんでした。それは Forkwell を立ち上げた女性エンジニアが、転職やマッチングに性別によるバイアスが影響を与えてはいけないという信念を持っていたためです。
今回 Forkwell 会員向けに、あるアンケートを実施した際、参考情報として取得した性別・年齢・年収データから、はじめて大きな男女間賃金格差があることを認識しました。(もともと男女間賃金格差の調査を目的としたアンケートではないことから、サンプル数が少ないことは否めません。)
性別によるバイアスが転職やマッチングに影響を与えてはいけないという信念を持ちながら、具体的な男女間賃金格差を把握していなかったことは運営として反省すべき点でしょう。
あらゆる格差問題はメディアが発信することで是正されてきた歴史があります。
本記事はあくまで男女間賃金格差に関する第一報です。今後も調査を進め、賃金格差の是正に少しでも貢献できればと考えています。
日本の男女間賃金格差は深刻です。OECD加盟国の中で性別による賃金格差は韓国、イスラエルに次いで第3位。このような背景を鑑み、2022年7月には従業員301人以上の企業を対象に「男女の賃金の差異」の開示が義務付けられました。
現在、日本におけるITエンジニアの女性比率は約20%。1この女性比率の少なさは、日本において「IT・理系 = 男性が目指すもの」という風潮が長く根付いたことも2影響のひとつといわれています。しかし時代の流れは変化しつつあり、2009年に比べ4倍以上もITエンジニアを目指す女性が増えているというのです。
本記事では、これからエンジニアを目指す女性だけでなく、エンジニアを採用中の企業へ向けても男女間賃金格差について具体的な金額を提示しながら解説していきます。
Forkwell が実施したアンケート結果によると、エンジニアの平均年収(全世代)は、男性600万円、女性490万円。男女間賃金格差3は、81.7ポイント。
続いて一般労働者の平均年収4 を見てみると、男性 404万円、女性 303万円。男女間賃金格差は、75.2ポイント。
一般労働者とエンジニアの男女間賃金格差を比較してみると、エンジニアの方が格差はやや少ない傾向です。
男女間賃金格差 | 一般労働者 | エンジニア |
---|---|---|
男性の平均年収 | 404万円 | 600万円 |
女性の平均年収 | 303万円 | 490万円 |
格差 | 75.2ポイント | 81.7ポイント |
しかし世界で最も男女格差が少ないブルガリアのポイントが 97.4ポイントであることを鑑みると、日本の男女格差が世界的に深刻であることに変わりはないでしょう。
下記は、全世代のエンジニアの平均年収を性別で分けたグラフです。
一般的に高給といわれる800万円をベースに見てみると、年収800万以上の男性は23%もいるのに対して、女性は僅か4%。また女性は半数以上が500万円以下であるのに対し、男性のボリュームゾーンは500〜800万。
上記は全世代データであるため、男性よりも女性の方が全体的に若く、年齢による年収の差があるだけなのではと仮説を立てました。そこで男女ともに30代に限定してみると、800万円以上の女性エンジニアは8%、男性は20%。全世代統計の4%と比べると倍ではあるものの、やはり男性よりも12%ほど低い結果に。
次は男女の昇給幅の違いです。
2022年のエンジニアの昇給幅は、男性が年間23万円、女性が年間4万円。
2021年の一般労働者の昇給幅は、男性が年間8.1万円、女性が年間2.2万円。
エンジニアの方が昇給額そのものが高い分、男女格差も大きいようです。
余談ですが、下記のグラフは一般労働者の賃金カーブです。男性の場合は年齢とともに右肩上がりに年収が高くなり、50代後半で一気に落ちる傾向があり、女性の場合は生涯を通して一定(アップダウンが少ない)傾向。この点は一般労働者とエンジニアで大きく異なる点といえそうです。
エンジニアなどの専門職においては、ミドル・シニア の方の転職事例も増えつつある。定年という概念にとらわれることなく、ご経験を活かして会社・社会へ貢献し たいという想いを持つ方は多い。
引用元:2023年 転職市場の展望
次はエンジニアの転職時における昇給幅です。
アンケート結果は、下記のとおり
ここでも男女で大きな差があるようです。
昇給額「60万円」を境に見てみると、男性の62%は転職時に60万円以上の昇給を実現しており、女性の71%は60万円以下の昇給額であることがわかりました。
(Forkwell のアンケートデータは、直近1年間に転職によって年収が上がったエンジニアを対象としたデータです。)
前述のとおり女性エンジニアの多くは、転職時の昇給額が60万円以下。そこで直近1年間で転職によって年収アップを成功させた14名の女性エンジニアを対象に、0点〜10点の11段階評価で “人生の幸福度” を自己申告してもらったところ、平均点は 7点でした。
実力と年収が伴っていないので転職したら、趣味に使うお金が増えた
(20代:データサイエンティスト) フリーランスになったら自由な時間が増え仕事も選べるようになり収入も増えた (30代:データエンジニア) 転職をしたら高めの年収を提示された。増えた年収で家事サービスを使えるようになって嬉しい (30代:サーバーサイドエンジニア) Point:この女性エンジニアの昇給額は60万円 前職では昇給が見込めないため転職。昇給額は高くないがフルリモートになり働きやすくなった。時間の自由が効き、仕事内容も以前より満足している (30代:サーバーサイドエンジニア) 営業からエンジニアに転職したところ月収が上がった。前職に比べて仕事も楽しく人間関係のストレスもなく、残業もないため自由な時間が増えた。 (20代:サーバーサイドエンジニア) *直近1年間で転職で年収アップを実現した女性エンジニアへのアンケート (女性25名の内訳:転職によって年収が上がった 14名、下がった 3名、変わらない 8名) |
アンケートでは、ほとんどの女性エンジニアが転職時に「自由な時間」を得たことで満足度が向上したと回答。一般労働者と比較し、エンジニアの年収ベースは高いため、年収そのものよりも家庭や私生活の充実度が幸福度に好影響を与えるのでしょうか。しかし転職時の昇給額には平均で50万円の男女格差があります。転職時のエンジニアの年収は性別や年齢ではなく、技術力で決まるべきでしょう。社会全体で、また女性エンジニア自身が、男性よりも昇給額を低く提示されている事実を把握することで、男女の年収格差はまだまだ縮まる可能性があるのではないでしょうか。
前述のように、今後も Forkwell は、調査を継続し発信していきます。またエンジニア向けのサービス事業者と交流を深め、意見交換しながら知見を広げていきたいので、コラボなど希望の方は、ぜひこちらへご連絡ください。
声を上げ続けていくことはもちろん大切ですが、悲しいことに社会は簡単には変わりません……。そこでエンジニア個人としてできる行動も紹介します。
ポートフォリオを更新し、スキルで評価される転職サービスに登録してみましょう。また統計情報を参考にする際は、所属業界に近いレポートかどうかに気を付けてください。こちらは Forkwell Press が過去に調査したレポートです。ぜひ参考にしてください。
年収が現在のスキルに見合わないと感じた場合は、現年収ではなく希望年収をベースに交渉することをおすすめします。転職活動の初期段階から、希望年収を伝えてみてください。希望年収をいくらに設定していいかわからないという方は、まずは希望年収を現年収+60万円以上、もしくは15%以上アップをベースに考えてみてください。本記事にあるように、現在の市況感では、60万円以上の昇給は特別なことではありません。
生活の変化とお金の使い道に関するアンケート」調査概要
調査手法 | インターネットでのアンケート |
調査対象者 | Forkwell に登録する 20〜60代までのエンジニア300名 |
有効回答数 | 260件 |
男女比率 | 男性:231名 女性:25名 答えたくない:4名 |
参考文献
Episode 576: When Women Stopped Coding
エンジニアに役立つ情報を定期的にお届けします。