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「世界規模で勝つ:ゲーム業界向けエンジニア組織」f4samurai CTO 松野 洋希

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2015年にリリースされたスマートフォン向けゲームアプリ『オルタンシア・サーガ -蒼の騎⼠団-』をはじめ、『マギアレコード 魔法少⼥まどか☆マギカ外伝』など数々のヒットタイトルを世に送り出しているf4samuraiは、2020年に創業10周年を迎えた注目の企業だ。「世界に、“一番のワクワク”を届ける」を企業理念に掲げ、ゲームの企画・開発だけでなく、配信、運営まで、コンテンツを世界に届けている。そしてさらなる発展を目指し奮闘している同社の創業者の一人、松野洋希CTO兼CHROに話を聞いた。

「ゲームを知らない」3人が創業、f4samuraiの歩み

2010年、野村総合研究所の同期だったCEOの金哲碩、COOの田口堅士、そしてCTO・CHROを兼務する松野の3人で起業したf4samurai。会社のミッションは『世界に一番のワクワクを届ける』ことだという。

松野:当初はゲームというのはまったくなかったのですが、人と人とをつなげるような事業、『コミュニケーション』が真ん中にある事業をやりたいという思いは共通していました。

当時、日本では2007年にリリースされた『釣り★スタ!』のスマッシュヒットに端を発するソーシャルゲームブームが続いていた。2009年にはモバゲータウン(現在のMobage)、mixiアプリがサービスインし、市場は軽いバブル状態にあった。

松野:当時のソーシャルゲームは、WebブラウザとSNSアカウントがあれば携帯電話で遊べる手軽なものが流行っていました。そこで『ちょっと気の利いたWebサービス』くらいの気持ちでやってみようかとなったんです。当日のVCからの勧めでもありました。3人ともゲームをやり込んできたわけでもなかったので、まずはやり込み、研究するところから手探りではじめました。

当然、当初は失敗の連続で、特に最初のゲームは「VCに聞いていた話と全然違うなというくらい失敗した(笑)」という。

松野:いまとは全然経済規模が違うんですけど、それでも月の売り上げが200万円とか300万円のタイトルがゴロゴロあったんです。その頃は携帯電話のスペックもそれほどでもありませんでしたし、ゲーム専業の会社もそれほど参入していなかったので、競争は激しかったですがなんとかなる感じはありました。

転機になったセガとの業務提携

失敗が続く中「まずは経験」と受託開発でしのぐ日々が続いた。

松野:何本かリリースしたんですけど、やっぱりうまくいかない。自分たちだけでは限界を感じて、セガネットワークス(現:セガ)さんと業務提携したんです。

転機になったのは、2013年3月にリリースした『ボーダーブレイクmobile -疾風のガンフロント-』。もともとアーケードゲームとして人気を博していたセガの作品で、原作である『ボーダーブレイク』が持つ世界観やキャラクターを生かしてアプリとして開発した。

時代の流れも、ガラケーからスマートフォンに切り替わり、ゲームに求められるものが大きく変化。端末のスペックは上がり続け、グラフィックの表現も多彩になっていった。

事業は軌道に乗ったものの……変化とCHRO就任

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ゲーム制作の勘所をつかみ、時流に乗ったf4samuraiはヒット作を連発。経営は安定したが、松野は「会社の変化」を敏感に感じ取っていた。

松野:ヒット作に恵まれ、会社の規模が大きくなっていく過程で変えなければいけないところにいち早く気付くことができなかったんです。『マギアレコード 魔法少⼥まどか☆マギカ外伝』の開発・リリースの2018年に、メンバー増員のためオフィスを2フロアに分けたことなどが影響して、メンバー間のコミュニケーション不足が業務にも影響してきたんです。

それまでは経営陣が同じチームに入ることもあったのですが、お互いの作業が直接目に見えるかたちじゃなくなって、何をやっているか何を考えているかがわからなくなった時期がありました。

会社に閉塞感が漂う一方で、松野が関わったタイトルが失敗する。売り上げが伸びずに5ヵ月でサービス停止となったのだ。

松野:技術戦略を考えるところは自分以外にも適任がいた。経営陣3人で話し合って、バックオフィス系のところを僕が見ることになりました。

エンジニア・クリエイターが多いゲーム会社では人事の責任者も現場を理解している人間の方が最適である。3人のなかでも技術に明るく、CTOとして手腕を発揮してきた松野なら「エンジニアにも配慮した人事、組織づくり」が可能なのではないか。CHROも兼務するようになった松野は、まず人事評定制度に手を入れ、突発的な成果に対して褒賞を与えるのではなく、社員がそれぞれの人生設計をある程度の長さで展望できるように、企業としての成果をベースアップという形で反映させた。

ゲーム会社のエンジニア組織とは?

技術を統括するCTOと人事の責任者であるCHROを兼任する松野は、自社のゲーム開発組織をこう説明する。

松野:制作チームの人数は20人から50人。規模的にも、スペシャリストよりもジェネラリストが向いているかもしれません。サーバーのここは誰にも負けません、Unityのここだけできますっていう人よりも、システム全体を見られる人の方が多いし、ユーザーにどのようなものを届けるかまで考えられる人の方が結果的に活躍できるケースが多いですね。

同社のエンジニア組織はフロントエンドエンジニア、サーバーサイドエンジニア、ネイティブエンジニアに大別される。

松野:フロントエンドエンジニアは、ゲームのUIや派手な演出を必要としない部分をhtmlやCSS、JavaScriptなどのWeb制作寄りの技術でつくっていきます。必要があればサーバーからデータを取り出したり、ネイティブに切り替えて画面を表示することもあるので、横断的な知識が必要になります。

サーバーサイドエンジニアはサーバーサイドのプログラミングのみでなく、AWS を使ったインフラ周りも担当しています。サーバー設定だったり、ミドルウェアのインストール、データベース周りなどを一通り見ています。

ネイティブエンジニアは今は Unityを使った実装が中心です。インゲームと呼ばれるゲームアプリ固有の画面をはじめ、通信や課金、アプリをビルドしてリリースするまでのところに関わります。

開かれた環境が引き出すエンジニアの可能性

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松野:どの職種にも共通するのは、自分の領域だけで完結するのではなく、全体を見てよりユーザーのためになる機能や改善を積極的に提案していくメンバーが多いです。

松野が挙げるのは、能力よりも視野や取り組み、他者への興味の部分だ。

松野:細分化が進むエンジニアの一部分だけにフォーカスして「極めたい」という人よりも、興味の幅が広くて、広い視野でゲーム全体を見たい人の方が合っていると思います。

松野曰く、働くにあたっての裁量や権限、自分が担当する範囲をある程度自由に決められるのが、f4samuraiのエンジニア組織の大きな特徴。CHROを務める松野自身、エンジニア組織が「内に籠もる」環境での失敗を経験しているだけに、それぞれがそれぞれのタスクを完遂すればいいという関係性ではなく、より開かれた、コミュニケーションがある環境を大切にしている。

すでに紹介した「おもしろさ」「やさしさ」「チャレンジ」「組織貢献」「当事者意識・責任感」「ルール遵守」と6つのバリューを見れば、f4samuraiのエンジニアチームが何を重視しているかは一目瞭然だ。

エンジニアだからできること

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野村総合研究所の技術支援部署出身の松野がCTOになるのは必然だったといえるが、後年担うことになるもう一つの役割、CHRO(人事最高責任者)も興味のある分野だった。

大所帯となった現在、人事面から会社を活性化することがいいゲームをつくること、ゲーム以外の事業の芽を育てること、会社の成長に直結するようになった。

松野:人事はやりたいことの一つではありますけど、一番は、会社のミッションを果たすこと。そのために僕のスキルが生かせるなら、人事なのか、コミュニケーションなのか、組織づくりなのか、やれることは何でもやります。

松野が目指しているエンジニア組織は、コミュニケーションを軸とした横断的組織。フロントエンドエンジニア、サーバーサイドエンジニア、ネイティブエンジニアがそれぞれの専門性を発揮したうえで、有機的に「ワクワクするもの」をつくりあげるために機能するのが理想だ。

松野:CHROを引き受けたときも、純粋な技術面のレビューは僕よりも得意なメンバーが他にいるから任せても大丈夫だと思っていましたし、CTOの役割は、エンジニアメンバーをうまく活かすことだと思っているので、エンジニアリングから遠くなったというより、むしろ近くなったと思っているんです。

世界観、ストーリーの質こそ日本のゲームの武器

CEOの金を中心にゲーム以外のプロジェクトが動き始めている。現在の中核であるゲーム事業では、2015年リリースのヒット作『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』を中国の開発会社にライセンスアウトしたフル3Dリメイク版『オルタンシア・サーガR』を日本を含めアジア全土でリリース。

松野:企画・開発、配信・運用までができることが弊社の強みだったのですが、『オルタンシア・サーガR』のプロジェクトでは、キャラクターデザインやストーリー、世界観の構築に付加価値があることをあらためて確認できました。

これから飛躍的な経済発展が予想されるアジアで、すでに覇権をうかがっている中国の制作会社にコンテンツの中身を評価されたのは大きい。

松野:制作の予算規模や技術では、海外の企業と張り合っていくのはなかなか厳しい未来がある。日本のゲームの可能性は、世界観の作り込みにあるのかもしれません。

ワクワクするものを生み出し続けていくためには、世の中の求めるものをタイムリーなタイミングで出していかなければいけません。もうゲームはつくって終わりの時代じゃない。手持ちの武器を増やしていかないといけないフェーズになっているのは間違いありません。

f4samuraiの描く未来は、日本のゲーム、エンターテインメント業界が直面する問題に差す一筋の光明になるのかもしれない。

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フォークウェルプレス編集部

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本サイト掲載の全て記事は、フォークウェル編集部が監修しています。編集部では、企画・執筆・編集・入稿の全工程をチェックしています。

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