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本当にエンジニアバブルは崩壊したのか?

本当にエンジニアバブルは崩壊したのか?

こんにちは。Forkwell の赤川です。

2023年に入り、外資系企業のレイオフニュースが流れたり、国内屈指のRails企業であるクックパッドの人員削減ニュースなど、心を痛めるニュースが続いています。
レイオフはどんな人でも傷つくといいますし、その話題を目にした方の中には、当事者でなくとも落ち込む方がいるかもしれません。
自己肯定感が傷ついたタイミングで転職活動すると、その満たされなさが面接で伝わって評価されにくいことがあるので、辛い気持ちの方は、利害関係がない信頼できる人と話して回復することから始めてみてください。

こうした市況感の中で「エンジニアバブルとは何だったのか」という記事が話題になっていました。過去20年、加熱し続けてきたITエンジニア採用市場が、2022年10月を境に冷え込み始めていることを指摘しつつ、個人として強かに生きる方法を助言した良記事です。未読の方はぜひご覧ください。

記事を読む中で、エンジニアバブルなるものが本当にあったのか、あったとすればどのような数値に表れていたのか、崩壊したのだとしたら数値にはどんな変化が現れているかを知りたくなり、個人的に調べたことをまとめます。また、この流れがエンジニア個人のキャリアにどのように影響を及ぼすのかを私なりに考えてみました。

なお、ここでの意見は、Forkwell を代表する意見ではなく、赤川個人の意見です。私が認識する事実や解釈に懸念があれば、ぜひご指摘ください。

求人票にみるITエンジニアの待遇向上の歴史

求人票には、500万円〜800万円のような、下限年収と上限年収というものがあります。Forkwell に掲載された求人票から、下限年収と上限年収の平均値と推移を、 時系列で見ていきます。

【平均値の推移】下限年収は、過去10年間で180万円の底上げ

まず、2013年から2023年の10年間で、公開された新着求人の下限年収と上限年収の平均値の推移を見てみます。グラフをみると、毎年着実にあがってきたことがわかります。

 Forkwell グラフ

  • 2013年:下限年収 平均 394万円
  • 2023年:下限年収 平均 570万円

過去10年間で180万円も底上げされていることがわかります。ジュニア層に提示される年収が、10年間で1.4倍になっている点は驚きです。エンジニア待遇の引き上げは、間違いなく起きているといえそうです。

では、直近の動きを見てみましょう。

上限年収、直近半年は、低迷〜横ばい

四半期単位でより細かなトレンドをみたグラフが下記です。

▲2022年の第4四半期以降(図の白枠)から、求人レンジは横ばいに見える

 

上限年収の平均値は、少し下がっているようにも見えます。バブル崩壊というような、極端な下降トレンドは見て取れませんが、踊り場に出たようにも見えますエンジニアバブルとは何だったのか」でも、2022年10月までバブルが続いていたという指摘がありました。

ITエンジニアの求人倍率は2022年9月から横ばいに

参考までに求人倍率も見てみましょう。転職求人倍率レポート(データ)

2023年5月25日発表のデータでは、エンジニア(IT・通信)の求人倍率は最も高く、右肩上がりが続き、2022年9月から求人倍率が10倍を超えました。Forkwell の求人年収データと同じく、2022年の後半以降、踊り場になっているようにも見えます。ただ、毎年12月を境に落ち着く傾向が見れるので、これからの動きをより注視する必要があります。

求人倍率のグラフ(doda)

▲doda.jp 転職求人倍率レポート(データ)より

2022年以降にIT銘柄で起きた時価総額の減少

では、仮に2022年第4四半期以降にバブルが落ち着いたとして、これは何がきっかけだったのでしょうか。元記事においては、色々なITブームの盛衰を指摘していますが、私からは、アメリカの利上げを発端とした、IT銘柄の株価下落を取り上げます。端的にいうと、アメリカでの利上げをきっかけに、ゼロ金利時代に投資が集中していたIT銘柄への資金が引き上げられ、各社の時価総額を大きく下げた結果、投資家・VCは投資先に利益を求めるようになったというものです。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。
The Bridge 2022/05 スタートアップはどのように市場の乱高下に備えるべきか【ゲスト寄稿】

外資IT系企業のレイオフは、上記をきっかけに起こったと理解しています。これがいわゆる「テックバブル」です。(この因果関係については私もまだまだ未熟なため、詳しい情報をお持ちの方は、ぜひご指摘ください)

これは海外だけでの話ではなく、日本の投資市場にも影響を与えており、2021年から22年にかけて、IT系の企業は軒並み時価総額を落としています(営業利益が伸びていてもです)。

IT自社サービス企業の時価総額(億円)

企業名 2021年 2022年 差分
Zホールディングス 41,848 40,163 △1,685
ZOZO 9,985 9,848 △137
楽天グループ 18,253 9,479 △8,774
サイバーエージェント 10,948 6,162 △4,786
メルカリ 9,310 3,135 △6,175
ラクス 3,867 3,024 △843
ビジョナル 1,986 2,776 790
マネーフォワード 4,171 2,626 △1,545
ディー・エヌ・エー 2,638 2,204 △434
フリー 5,592 1,859 △3,733
Sansan 2,575 1,274 △1,301
弁護士ドットコム 1,939 874 △1,065

※Bard に抽出させた上場企業のみをIRBANKで調査

以下のツイートも印象的でした。

このような背景から、企業は売上の伸び率よりも営業利益を重視する傾向を強めたと理解しています。Forkwell のもとにも、メガベンチャーを中心に採用要件の引き上げや、ハイレイヤー層の限定採用への方針転換の希望が届いています。(これは Forkwell のような人材サービス企業にとっては向かい風となります)

一方で、バブル崩壊を感じない人もいるでしょう。どうやら、SIerなどの受託開発系の企業は、時価総額が影響を受けていないようです。

企業名 2021年 2022年 差分
富士通 31,839 36,187 4,348
エヌ・ティ・ティ・データ 24,024 33,909 9,885
日本電気(NEC) 17,766 14,031 △3,735
日立製作所(※) 48,380 59,630 11,250

▲国内4大ITベンダーの時価総額(億円)※日立製作所はIT以外の評価も含む

日本の労働人口、特にエンジニアの人材需要に対する供給はギャップが開く一方ですので、そういった企業では、引き続きエンジニア採用が加熱しています。こうした業界に所属する方にとっては、エンジニアバブル崩壊と言われてもピンとこないかもしれません。

誰もが受け身でキャリア構築できた時代の終わり

仮に、下降トレンドに移っている場合、個人のキャリアに、何が起きるでしょうか。時価総額が下がった事実はあるものの、外資を除けば、求人側では下降トレンドに入ったという数的証拠はありませんので、ここから先は私の妄想です。

例えばこんなことが起こるかもしれません。

  • 二極化(経験豊富な人はより多くの機会を得る一方、経験が少ない人への機会が減る)
  • 自社サービス開発への道が狭まる
  • “転職時の給料の妥当性”よりも、”転職先での給料の妥当性”が問われる
  • 格差の固定化(氷河期世代の不遇、男女間賃金格差の固定化など)
  • Paypalマフィアのような ○○マフィアの誕生(そうなってほしいという願いも込めて)

特にお伝えしたいのは「受け身でキャリアを構築できた時代が終わる」ということです。

需要過多な市況では、誰もが声をかけられ、キャリアは雇用側から勝手に提案される時代でした。しかし、採用予算が絞られる中では、企業の採用にかけられる工数が減ります。すると、向こうから勝手にキャリアを色々考えてくる機会はぐんと減ります。自分のキャリアは、自分で考えなければならなくなります。

そうはいっても、人の心はそう簡単には変わりません。待っていればキャリアがやってくる時代に慣れ親しんだ人たちは、今までの通りの行動を維持するでしょう。いち早く自分のキャリアを自分でつくるために行動できた人が、より機会を得やすい市場に変わるかもしれません。

働くひとのためのキャリア・デザイン」という書籍の中で、「人が新しくキャリアを踏み出す時、古い生活や愛着と決別し、必ず何かを終わらせている」という研究が紹介されています。今回私たちが決別しなければならないのは「受け身でキャリアを作れた時代」かもしれません。

これは前のめりで転職活動しようという短絡的な話ではありません。

  • 眼の前の仕事を通じて、自分の経験を積み上げること
  • 自分が出せる価値をしっかりと言語化すること
  • ときが来たら、自ら自分を売り込んでいくこと

より主体的に、自分のキャリアに自分で責任を取りにいく観点が必要になります。

職歴書をメンテナンスしよう

その一歩目として、最近自分の職歴書を更新していない方は、ぜひそこから着手してみてください。第三者に伝わる職歴書を書くことは、そう簡単なことではありません。仕事の目的や課題とそれを解決したプロセスなどを、具体的に書くには、当然、まじめに仕事に向き合う必要があります。

書き上げてみると、こうした話は別に下降トレンドでなくとも、当たり前の話でした。
この記事が、不透明な時代でキャリアに悩むエンジニアにとって、少しでもお役に立てたら幸いです。

SNSでの反応

記事への反応をいくつか紹介します(2023/06/08 9:15更新)

(宣伝)上級エンジニア特化のキャリア支援サービスをはじめました

Forkwell では、この市況下でキャリアに悩むエンジニアのよきパートナーとなれるよう、上級エンジニアに特化したキャリア支援サービスをはじめます。

  • スペシャリストになるか、マネージャーになるか、キャリアの分岐点で悩んでいる
  • 現職に特化した経験を、どう他の企業に売り込んでいいかがわからない
  • 仕事だけでなく、家庭での責任も大きくなってきた中で、エンジニアとしてのキャリアをどう築いていくか悩む
  • 自分のプロフィールを第三者目線でしっかりとレビューしてほしい

まずは赤川自身が率先してエンジニアのみなさんとお会いいたします。

スタンスとしては、スポーツ選手のエージェントのように、エンジニアの立場で次のキャリアを提案しており、キャリアを実現するために、すでに募集されている案件をサーチするだけでなく、ニーズがありそうな企業へ交渉し、望ましい案件を作りだすことに注力いたします。
赤川との面談をご希望の方は、以下のURLからお申し込みください。

赤川ポートレート

赤川朗

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ITエンジニアのキャリアに本気で向き合う転職サイトForkwell(フォークウェル) の事業責任者を4年務めました。子供のころから、何かを作るのが大好きで、今でもモノづくりをしている人たちを尊敬しています。Infra Study、Front-End Study、Data Engineering Studyなど、ITエンジニア向けの勉強会も多数開催しています。 https://forkwell.connpass.com/

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