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■Forkwell調査
2022.11.15 2024.01.22 約5分
こんにちは。Forkwell の赤川です。
本記事では、複数のエンジニアリングマネージャー(EM)へのインタビューや、Forkwellが持つITエンジニアの年収データを踏まえ、EMのキャリアを考えます。
まず、複数のエンジニアリングマネージャーへインタビューしました。秘匿性の高い情報を扱っている方が大半ですので、回答者の在籍企業名や個人名を伏せて声だけを紹介します。
あるメンバーに「コードを書かない、何も成果を出していないマネージャー」と言われたことがあります。でも、その気持ちは痛いほどわかりました。実は、自分自身も過去に同じことを上司に言ったことがあったからです。
抱えている課題に向き合いたいのに忙しくて着手できない → 改善されなく問題が起こる → 対処療法的な問題解決を優先せざるを得ない、の負のループにはまってしまいました。
社内受託のような関係性を生んでしまいました。PMが熱意を持って「一緒にやりたい」と言い続けてくれて、初めて自分が受託的な振る舞いをしていたことに気付きました。
自分は採用が得意なほうだと過信し孤軍奮闘してしまったことがあります。メンバーが「私たちもやります」と言ってくれて、採用できるようになりましたが、それまで抱え込んでいました。
開発組織の意義について、経営陣と共通認識を持つことができませんでした。開発組織への理解を得る前に、意思決定が上から来て、困ることが多々ありました。
自分の給与を上げられないことよりも、メンバーの評価給与を満足に上げられないことをストレスに感じました。どうしてこのメンバーの活躍を会社はわかってくれないのだろう。それを説明するのが私の仕事なので、自分の力不足と向き合うことになりました。
エンジニアチームというより会社運営へのコミットを求められ、開発組織の組織力向上に直接紐付かない(間接的にも紐付いている気がしない)仕事に忙殺されています
チームの足を引っ張る人に対処しないと、他のメンバーに影響がでるのは理解していますが、どこまで相手の成長を期待して、どこまでいったら諦めるのか。諦めた相手とどう向き合うかという難しさがあります。
開発チームは、考え方も関心をもつ技術も全く異なる人々の集まり。ひとりひとりが違う生き物。そうしたバラバラな特性が、一つのチームとして機能し、成果が生まれた瞬間の喜びはひとしおでした。
「こんなスピードで実装できるようになったのか」「こんな技術を扱えるようになったのか」と、メンバーが自分の想像の域を超えて成長する瞬間があります。コードなら書いたとおりにしか動きませんが、人間はリソースそのものが成長するような感覚です。いろんな辛いことがあっても、この瞬間に立ち会えると、全部報われます。
組織が大きくなるなかで生産性を維持するのは非常に難しいのですが、この問題を解くことに面白みを感じます。組織とアーキテクチャを同等に扱えるのも、EMならではです。
新しい技術のパラダイムが常に登場しているように、マネジメントのパラダイムも日々刷新されています。これを追いかけ実践する日々は、技術を追いかけ実践していた日々と同じように喜びにあふれています。
EMとしての辛さも喜びも人それぞれの意見がありましたが、どの方も「人の成長」について語るときには熱がこもっていました。人が輝く瞬間に立ち会う喜びは、何者にも代え難いのだと思います。
しかし喜びだけでは、ご飯を食べられないのが人生です。次のパートでは、EMは稼げる仕事なのかを見ていきます。
EMの方々は、どのくらいの給与で働いているでしょうか。2022年11月時点で Forkwell に登録するIT/Webエンジニアの匿名データをもとに、年代別の年収分布を見てみます。
このグラフは、エンジニアリングマネージャーの世代別の、年収の中央値、上位5%、上位20%、下位20%の給与ラインを示したものです。
中央値では以下のように推移しています。
・30代前半まで:600〜700万円
・30代後半から:800万円前後
上位5%では年齢に関わらず1,200万円前後でした。同様に上位20%でも年齢と給与が連動していないように見えます。これは、上位20%以上の給与を出す企業では、EMという”役割”に対しての給与テーブルがあり、それが年齢によらないことを表しているように思います。
ここでは、エンジニアリングマネージャーの他に、テックリード経験者、コードレビュー経験者、実装の経験者と比較した給与の差を見ます(一人の人がそれぞれの経験を重複していることもあります)。
この見方で、EM経験者と実装経験者を比較すると、EM経験者の年収は150〜200万円以上高いことがわかります。
▲上記のデータの出典や、ITエンジニア全体の年収分布は別記事で解説しています。
続いて、EMの求人動向を見ていきます。
Forkwell Jobs にエンジニアリングマネージャーという職種が初めて登場したのは、2018年でした。全求人のEMの割合は順調に増え、2022年には新規求人の 5%がEM求人になりました。各社がエンジニア組織を拡大する今、それをマネジメントするEMのニーズはさらに増えていくでしょう。
求人には、下限年収と上限年収があります(例:年収600〜800万円)。これらの推移も見てみましょう。
リモートワークへの取り組みをみると、2019年時点では出社が必要な求人が50%ほどあったのに対し、2022年では、フルリモートの割合が逆転し、50%以上を占めています。プレイヤーのリモートワーク化に伴って、EMのリモートワーク化も進んでいるようです。リモートワーク下でのマネジメントスキルが求められていることがわかります。(なお、2018年はEMの求人数が少なく、全てが一部リモート可に属していました。)
企業は、EMに対してどのような能力を求めているのでしょうか。本記事の執筆にあたり、Forkwell Jobs 上の EM求人に目を通しましたが、中でもタイミー社のEM求人がかなりよく記述されていましたので、そこから採用要件を抜粋して紹介します。
包括的な開発経験と、任されるチームの規模感にあったソフトスキルが必要であることがわかります。この求人は要件を読むだけで、どんな役割を担ってほしいかが想像できる、良い記述です。同社の求人は、募集背景や役割への期待値が明確で、下限年収も800万円からと高めに設定されており、学ぶべき点が多いです。これからEM求人を作ろうと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
EMにインタビューした際に、自身の待遇をどう考えているかも聞いてみました。
自分の市場価値、キャリアを考える瞬間はあまりないです。それよりも、チームのパフォーマンスや、メンバーのキャリア、上司や他部署との関係などの悩みが大きく、自分と向き合う時間が少ないのかもしれません。
人を評価する難しさ、矛盾と向き合うことが多く、転じて、自分の評価に一喜一憂しなくなるようになりました。
その時その場でもらえる給与で、やれるだけの成果をだす、そんな姿勢です。
あまり個人での評価を考えたことはありません。もちろん給与は高いほうが嬉しいですが、それは組織の成果と結びつくべきと考えています。
EMの方々は、その他のエンジニア職種の方々と比較して、あまり自分の待遇を強く意識していないように感じました。一方で「市場の給与と大きくギャップがない前提で」と話し始める人もいたので、それ相応に評価されている実感は求められていそうです。
私は、EMはとても重要な仕事だと考えています。本記事は、EMがより適切な処遇が受けられるポジションになり、積極的に目指す人が増えてほしいと思って書き始めました。データをみると相対的に高く評価されていることがわかり、またインタビューでも自身の評価に対してある程度満足している声がありました。苦労を交えつつも仕事の面白さを語る姿はとても魅力的でした。このことから、エンジニアリングマネージャーは魅力的なキャリアだと結論づけます。もし本記事にあるような悩みを仲間と共有し、また人や組織の成長に立ち会いたいと思う方がいれば、ぜひEMを選択肢に加えてください。