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2018.08.28 2023.12.14 約5分
エンジニアの皆さん、Forkwell Portfolioをご存知ですか?オンラインでプロフィール登録しGitHub連携すると、ロボットがフィードバックを返してくれます。さらにフィードバックはTwitterでシェア可能!
今回は株式会社ドワンゴ、塩谷 啓(@kwappa 写真左)氏にForkwellプロダクトマネージャー谷内(@yachibit 写真右)が率直な感想を伺いました。後半は塩谷氏のキャリア観やドワンゴ式エンジニア教育の秘密を公開!
――Forkwell Portfolioを使ってみた率直な印象をお聞かせください。
塩谷 啓(以下、塩谷) 僕もプロフィールツールを作っていたので、どこが大変かわかっているつもりです。プロジェクトとしてチカラの入った、良いものができているなという第一印象ですね。
――自社や知り合いのエンジニアにオススメするとしたら、10点満点で何点くらいですか?
塩谷 期待を込めて7点ですね。中央の5点よりポジティブにしたいなと思います。
――逆に、10点に至らない部分はどういうところですか?
塩谷 ドワンゴはクローズドなところにGitHub Enterpriseを置いてるので、その連携をどうするのかが1つ。あとは、ドワンゴにはインフラエンジニアがそこそこの数います。コードを書いてコミットするのがメインではないインフラエンジニアを、どう評価していくのか。それだとシステムではなくてインフラエンジニアのスキルの可視化という大きな話になってしまうのですが、欲を言うとそんなところですかね。
僕は元々インフラは強くないので、エンジニアのスキル可視化から取り組んでいただいて、ここで実現されるとなお良いかなと思います。Webサービスでも、運用してる方の障害がゼロだとしたら100点満点なのですけど、そういう部分は見えにくい。障害が出た時のみに限定された人の活動を、どうログをとってアピールしていくかですね。
――ポートフォリオを他の人と見比べたときに成長の糧になるという側面もあると思いますが、それに関してはどう思いますか?
塩谷 ポートフォリオを見るのは、自分のキャリアパスやロールモデルを探す方向に作用するのかなと思っているので、僕は年上の人のものをすごく見たいですね。僕は45歳なのですが、40代後半のウェブ系のエンジニアってあまりいないので。
本来は若手にも、30歳になったときにどういうポートフォリオを組めるのか、定年の時にどうなっているのかという指標になってくれるといいと思います。カタログ的に◯◯社で32歳というのがあると、自社の32歳に対して「周りはこうだぞ」という話もできます。そういう活用の仕方までできれば良いのかなと思います。あまりやるとえげつないですけど(笑)。
——年上の方のポートフォリオは、具体的にどんな情報が見たいですか?
塩谷 若手のうちだと、使っているフレームワークは何か、技術でも手元のプログラミング能力よりちょっと上のところ、どういう体制で作っているとかどういうところを重視しているとか。会社から何を求められているのか。もう少し上だと、マネジメントとエンジニアリングのバランス、チームの作り方、育て方みたいなところとかですね。
僕の場合、40代後半はレアキャラなのでどういうことをしてるのかを単純に知りたいです。さらにいうと、業界全体にどういうスキルが足りていて、どういうスキルが足りないのか。
――ご自身の分析結果を見て、ご自身の特徴は表現されてますか?
塩谷 なるほどなという感じですね。面白い機能で、いいんじゃないかなと。ロボットからのフィードバックを見て真剣に判断するということはないと思うので、自社要員として必要ならコードを読みに行きますし、こういうところはキャリアの羅針盤というか「そうだったのか」という指標になってくれば良いのかなと思います。
そのほか、塩谷様には今後のForkwell Portfolio の開発に関わるアドバイスを沢山いただきました。どのような内容であったかは、今後のリリースをお楽しみに!
――御社のエンジニアの成長を促すためにやっている施策はどんなものがありますか?
塩谷 制度的なものではないんですが、最近よく言ってるのは「仕事日記をつけなさい」ということですね。われわれの会社では、半期ごとに評価のタイミングがあります。半期の間で何をやったかアピールできるまとめになりますから、「まずはそこからやろう」という話をするようにしています。メモにした上で清書する仕組みや、月に1回振り返りになると良いのかなと。
――日報を作る機能も考えてはいるんですが、日記というとどのようなフォーマットをイメージされていますか?
塩谷 僕は完全にマークダウンで、iOSとmacOSで使えてiCloudでシンクできるものですね。
――日記というのは社内で共有するところがあるんですか?
塩谷 人それぞれですね。新卒研修中は日報を書くように言ってますし、配属された新人には配属先のポリシーに従って必要なら書きなさい、配属先で決まりがないなら自分のために書いた方が良いよという話をしています。
――確かに半年後に更新しようと言われても、手元にデータがないと覚えてられないですよね。
塩谷 まずはログを取る。ログに時間がかかっちゃいけないので、ストレスなくパパッと取れて、なおかつ後で振り返れると良いですね。
ここからは、塩谷様ご自身の仕事観についてお伺いいたします。
「健康でやる気に溢れたエンジニアが、1人でも増えてほしい。」と語る塩谷さん。セルフマネジメントの原点や、「お悩み相談室」の裏側についてもお話しいただきました。
――御社では「お悩み相談室」を開設されていますが、どういう年齢層のエンジニアからお悩みが来ることが多いですか?
塩谷 どちらかというと若手ですね。20代が多いと思います、これは定量ではなくて印象で喋ってますけど。
――よくある悩みはどんなものがありますか?
塩谷 やはり仕事に何らかの不満があって異動したい、会社を辞めたい・辞めようと思っているというものが1番よくある、かつシリアスな悩みですね。
相談室の時間は決まっていて、相談を受けるのは僕の他にも2名いて計3名で話を聞きます。一応シークレットにしていて、周りにも相談したことがバレないようになっています。社内の会議室でやることもありますし、飲食店で飲み食いしながら話すときもあります。
――辞めようと思ってる人って、すでに内圧が高い状態にあると思うのですが、そういう人たちを引き止めることはあるんですか?
塩谷 無理に引き止めることはしないですね。もちろん辞めてほしくはないですが。話を聞く3人は採用に関わっていたり転職経験があったりするので、相談に来るメンバーよりはある程度豊富な経験を積んでいます。どこが不満なのか、どこに行こうと思っているのか。
他社にも友人がたくさんいますから、そこから仕入れた情報や採用動向を見ながら「どこに行こうとしてるの?」「それだったらウチでもう少し頑張れば」「それが君の本当にやりたいことなの?」と話したりします。無理に引き止めるわけではなく、本人が1番活躍できる、会社もエンジニアも良い形になれる場にしようというのがポリシーです。
――ひょっとしたら、転職エージェントよりも厚いサポートかもしれないですね。
塩谷 もちろん、引き止めるケースがゼロではないですけどね。できるだけ公平に業界の動向とかエンジニアのキャリアとかわれわれの経験をシェアして、全部を判断した上でどうするか。判断するための情報は出すよ、ということをしています。
――おそらく一般に流通していない情報も持っていらっしゃるわけですよね。
塩谷 そうですね。例えば中途採用にそこそこの時間をかけて取り組んでいるとか。自社だけではなくて同業他社の同じ立場の人間から個人的に聞いてきた話とかを、彼らの不利益にならないような形で提供したり。そのうえで「会社も君も幸せになる選択肢を選ぼうね」という話をするようにはしています。辞めてほしくないですし引き止めにかかりたいですが、そこはぐっとこらえて。
――その人のキャリアを豊かにするにはどちらなのか、ということが大事ってことですね。
塩谷 他社を知らないからちょっと外を見てみたい、というエンジニアもいます。「気持ちはわかるけど今じゃないんじゃないか」とか、あるいはポンと飛び出して辛い思いをするなら僕ら年寄りから情報を引っ張り出して事故らないようにしてね、とか。僕自身も出戻りですから、「いつか出戻っておいで」というメッセージも込めて。
――お悩みの中で「これは面白いな」と思ったものはありますか?
塩谷 「僕の夢は某大手外資系企業に就職することです」と言うのでよくよく話を聞いたら、全然違う他社に就職しようとしていたケースはあります(苦笑)。優秀なエンジニアだったのでもちろん辞めてほしくないんですが、「じゃあその夢の過程において、他社ではなくウチでは得られるものは本当にないのかい?」みたいな話はしたことがあります。
――具体的にこれが足りないとか先方から言われたりするんですか?
塩谷 聞いてみて、彼が扱う領域や他社で扱うものを聞いた上でどうするかは任せますね。もちろん辞めてほしくない気持ちは伝えた上で、行く先の企業について持っている情報は正直に伝えます。われわれとしては、彼が夢を叶えた上でウチに戻ってきてくれればいいなと思うので。
――御社に勤めている以上は、100パーセント納得した上でいてほしいと。
塩谷 100パーセントは現実としてなかなか難しいですけど、イヤイヤだったり我慢してではなくて、デキる人が選択的にウチにいることが理想的だと思うので。綺麗事ではありますけど、そういうエンジニアの方が成果を出すと思いますし、周りに与える影響も大きいと思います。
――居酒屋で会社の悪口を言うなんてコミュニケーションは、あまり発生してほしくないと。
塩谷 それも仕方ないことだし、良いとは思うんです。けど、ずっとそれだとなかなか前に進まないので。愚痴もあって良いんですけど、僕らがやっていることが前向きにキャリアを選び取るきっかけになれば良いと思っています。
――回答に困ったものものなどはありましたか?
塩谷 一番は、ぶっちゃけお金の話ですね。「他社で、給料がこれだけ上がるので」と言われたらそうですか、というしかない。優秀なので活躍してほしいし成果を出してほしいしお給料を上げてあげたい。だけど、いろんな事情でその額を出すのは難しいというケースです。
是が非でもエンジニアを集めたい他社が業界内の相場や社内の基準より高い額を提示する、なんてケースが一番困ります。明らかに相場より低い評価だったりするときはマネージャーに意見したりすることもありますが、我々相談室が頻繁に口を出しちゃうと、チームのマネジメントに口を出すことになってしまうので。苦しいなと思いながら、聞くことが多いですね。
――お悩み相談室で、人事評価に関わることはないんですか?
塩谷 ないです。直接のマネージャーではないですし、そもそもここで言ったことはどうしても必要なこと以外は基本オフレコですから。相談の内容によって、例えばコンプラに関わるものは適切な対応をしますし、心身の状況がやばそうならカウンセリング受けるなり医師にかかるようにしましょう、というのは前提として伝えてあります。法律と健康に関しては、必要があれば関係各所に共有します。
――悩みの傾向としては待遇面が多いですか?
塩谷 どちらかというとキャリアの方が多いですね。他の会社を知らないので(外を見たい)とか、仕事が合わない、マネージャーと合わない、みたいなところで。
もちろん、レポートラインがあるから問題があったら組織図上でエスカレーションしていくのが会社員としては普通です。ただ、それだとレポートラインに問題があったときに手詰まりになる。そのためのもう1つの経路として、お悩み相談室があります。
例えばマネージャーと合わないのであれば、周辺の聞き込みをしてみます。マネージャーにも言い分があったりしますから、「じゃあこういうマネジメントしたらどうだい」という話をしたりもしますし、難しそうなら異動先を探したりもします。
――社内コミュニケーションのメンテナンスも仕事として担当されているんですね。
塩谷 そうなってくれているといいな、と思いながら仕事しています。
――そうすると、通常業務に加えてですから塩谷さんの仕事の負荷は相当高そうですね。
塩谷 向き不向きはあると思います。メンタルヘルスのカウンセラーとかお医者さんって、本人が潰れちゃったりするんですよ。人の悩みで自分が濁る、みたいな。
――悩み相談を受ける側が交代されたことはあるんですか?
塩谷 今のところは変わってないです。部署的には技術コミュニケーション室所属なので、プロダクトとサービスに対しては完全に中立なんです。「ここを抜かれるとこのプロジェクトが困るよ」ということもありますし、成果に影響してしまうと思うマネージャーもいます。プロダクトに対しては、中立でないといけないですね。
――ご自身の悩みをアウトプットすることはありますか?
塩谷 ないですね。僕の悩みの相談先がないので。
――塩谷さんは、ご自身の悩みをどう解決しているのですか?
塩谷 中に答えを持っている人はいないので外の繋がりですよね。特に40代中盤から後半のウェブエンジニアからキャリアを積んでいる人ってあまりいないのでそういう人と話をしてどうなのということを聞きながらなんとかしています。
――社内にメンターになる人はいないんですか?
塩谷 部分的にはいますね。例えばサービスに関して責任を持ってる人がいると、サービスのことは当然相談します。エンジニア組織に関しては、組織全体のトップと話をします。ただ、僕のキャリアが今後どうなったら良いのか、というメンターはいないです。うちは割とマネージャー陣も若くて、僕も上から数えた方が早かったりするので。
――メンターがいないという状況だといよいよセルフマネジメントが大事かと思うのですが、塩谷さん自身がセルフマネジメントの観点で日々取り組んでいることはありますか?
塩谷 もうこの歳なので、新しいことを吸収するよりは過去のもので仕事をすることが多いフェーズです。なので、常にそれを整理整頓しておくこと。もう一つは、常にリセットスイッチを持っておくことですね。
――リセットスイッチ。
塩谷 そう。僕だとクラフトビールとサウナです(笑)。一旦リセットできるように気をつけています。 現実の問題は解決しないので、一旦切り離す。そういうことを意図的にしていかないと、問題に巻き込まれて参っちゃうので。
――そうした習慣はいつ頃からあるんですか?
塩谷 前にライトニングトークで話したことがあるんですが、以前とある自社サービスをやってる会社で、メンタルを壊しかけた経験がありまして。会社近くの本屋で「SEのためのうつ病防止マニュアル」みたい本をたまたま読んで、「これ、オレじゃん」と思って人事部長に相談したんです。そうしたら「そうか、えらい人に掛け合ってやるからちょっと待て」と言われたんですが、その人事部長はそのままバックれたんですよ。
――ええええ、そんな。
塩谷 「あの人、会社来てないんだよね」って(苦笑)。それで、自分の身は自分で守らねばならないというポリシーが生まれました。幸い、メンタルが壊れる前に転職の準備はできました。それからリセットをするとか、自分の身は自分で守ることはやるようになりました。
今後、ソフトウェアエンジニアはますます不足してきます。一方で、タスク過多でメンタルを壊すエンジニアも多いです。メンタルもウデも、自分でメンテナンスした上でやることを選べるエンジニアが増えてほしいですね。その結果、世の中のソフトウェアの性能が上がったら社会が幸せになる。
例えば、自動改札が0.2秒遅くなったら社会的にものすごい損失です。その0.2秒って、すごく小さなことで決まります。それこそ、エンジニアがやる気に溢れているかいないとか、そんなことだと思うんです。健康でモチベーション高くエンジニアリングに取り組む人が、1人でも増えて欲しい。それが一番の綺麗事ですね。
<了>
ライター:澤山大輔