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■エンジニアの軌跡
2022.02.28 2024.03.06 約2分
「従業員のサボり」が不安でリモートワークを疑問視していませんか?。しかし本当の懸念すべきは「従業員の働きすぎ」にあります。リモートワークは工夫次第で、従業員の生産性を高める最適な手段となります。世界的に有名なエンジニアであるDavid Heinemeier Hansson(DHH)氏に、リモートワークの魅力とあり方についてお聞きしました。
David Heinemeier Hansson(通称:DHH)
デンマーク出身のエンジニア。Basecampの経営者、著作家としても活躍。彼が開発した「Ruby on Raills」はWebアプリケーション開発のフレームワークとして世界中のエンジニアから人気を集め、様々な分野の開発に活用されている。またニューヨークタイムズのベストセラーに選ばれた「強いチームはオフィスを捨てる(REMOTE)」や「リモートワークの達人」などの著書は世界中の企業に影響を与えている。 Twitter:https://twitter.com/dhh?s=20 |
リモートワーク中に部下がサボっているのではないか…と不安視する管理職は多いでしょう。
リモートワークの成功には、
という2つの文化が必要です。
1つ目のポイントは、「仕事量が減るのでは…」という管理職の懸念を「働きすぎるのでは…」の懸念へ転換することです。リモートワークは仕事と家庭が明確に分離されないので、人々は偶発的、または意図的に働きすぎてしまうことがほとんどです。
特に日本では、リモートワークだけでなくオフィスでも過労が問題になっています。私たちは夏場は週40時間以下(現在は週32時間)で働いていますが、生産性は全く低下していません。なぜなら費やした時間ではなく質の方が重要だからです。騒がしくオープンなオフィスで時間を過ごすよりも、リモートワークで難しい問題に深く入り込む方がはるかに価値のある時間を過ごせます。
つまりリモートワークの導入は、より多くのことを達成する時間の確保につながります。従業員に長時間働いてもらう必要はなく、むしろ社員が働きすぎないようにしなければなりません。
2つ目のポイントは、口頭で会議をする文化から文章を書く文化への移行です。コミュニケーションや情報発信のための主要ツールである会議を、ほとんどすべて「文書化」することが絶対的に必要です。文章で始めれば非同期での共同作業が可能になるので、新しいプロジェクトの更新であれ、新しい取り組みであれ、まずは文章で始めるべきです。
会議に時間を拘束されていると、自分が取り組んでいる問題に悩む気にもなれません。会議を文書作成に切り替えると、従業員は自分に合った方法で自分の作業時間を組み立てることができます。
一方で、会議から文書化への移行を妨げる要因についても考えてみましょう。
会議から文書化への移行が難しい理由の一つは、”As Soon As Possible”(できるだけ早く)が重視されているからです。私たちが書いた「Rework」に「ASAP is poison」(ASAPは毒)とあるように、この考え方は間違っています。ほとんどの案件は明日取り組んだとしても問題ないでしょう。
これは「早急に対応しなければならない」という考えに縛られている人にとっては非常に難しい移行です。しかし文書でのコミュニケーションが実現すれば、物事を進めるための柔軟性が生まれ、個々人が自身の作業に集中し創造性を発揮する質の高い時間が確保できます。
リモートワークでは人とのつながりの無さや孤独を感じる場合があります。人と定期的に会うことは、人間の基本的な欲求であり重要なことです。しかしそれがオフィスである必要はないし、1日8時間である必要もないのです。
毎日一人で仕事をしていてもうまくいかないのは、人間が社会的な動物であるからです。ここで重要なのは、「オフィスでずっと過ごすか」「他の人間と全く会わないか」のどちらか極端な選択をする必要はないと理解することです。
リモートで加速したオンライン会議(ビデオチャット)は、控えめにすべきでしょう。多くの企業が体験したようにオンライン会議は多くの情報を伝えられる点では優れていますが、やりすぎると偽物のように感じる恐れがあります。つまり人間が実際には人間ではないような気がしてくるのです。こういったことから誰かと実際に一緒に過ごすことが非常に重要になってきます。
定期的に人間的な絆を再構築し心のバッテリーを充電することで仕事に大きな違いが生まれます。今回のパンデミックでは人と人が実際に会う機会が1年半以上もなかったため、さまざまな問題が発生しました。リモートワークに大賛成だとしても「人間らしさ」と組み合わせなければならないのです。できれば同僚と定期的に会って顔を合わせたり、それができなければ、家族であれ、友人であれ、何らかの形で代用しなければなりません。
パンデミック以前は半年に1度の全社会議を開いていました。世界中の従業員を飛行機に乗せて1週間一緒に過ごすのですが、それはとても価値のあることでした。お金はかかりますが人とのつながりを築くことで得られる見返りは、それだけの価値があります。
リモートワークで生産性を上げられるからといって、人間が他者との関わり無しで長期的に仕事を継続できるわけではないのです。
会社全体での会議や各チームのグループワークも行っていますが、多くの時間は一緒にゲームをしたり、仕事とは直接関係のない話やアクティビティを楽しんでいました。
半分は休暇、半分は仕事のようなもので、主な目的はただ一緒に時間を過ごすことであり、それが実現できるのであれば何であれ重要です。何らかの成果を得ようとするよりも、この2週間を利用して1年のうち残りの50週間をより有意義なものにすることの方が重要です。
多くの日本企業は人間同士の交流よりも何らかの成果を生み出すことに重きを置いているように感じます。しかし社会的な絆が弱まれば弱まるほど、対立や誤解が生じやすくなり仕事の状況に不満を抱く人が増えていきます。
従業員の絆に投資することは非常に価値のあることです。「具体的に何かを得られたか?」に費用対効果を考えてはいけません。
リモートワークが持つ本来のメリットを享受するためには、従業員が働きすぎないように管理をするとともに、会議の文書化を推進する必要があります。そのためには「仕事を早く終わらせなければならない」といった固定概念をなくし、質の高い時間を確保することが重要です。
このように、リモートワークへの移行は仕事の生産性を高めるうえで大いに有益である一方、人との感情的なつながりを希薄化させる可能性も含んでいます。リモートワークの導入が進んでも従業員が直接関わる機会を定期的に設け、彼らが社会的な絆を構築するために積極的な投資を行うことが重要です。
【DHH氏の著書】
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