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2021.06.08 2024.01.22 約4分
伝統的なシステムと最先端テクノロジー。金融業界は、IT、DXの波によって最も大きく変わる業界だと言われている。トイウェア株式会社は、金融システムのプロフェッショナルが起業したFintech企業として、コンサルティング、システム設計、開発を行う企業だ。社名の「トイウェア」にはToI(Things Of Interesting)と、面白い製品(Ware)を作りたいという思いが込められていて、近年は、金融領域以外に自社サービス開発も行っている。
ビットコインなどの仮想通貨やブロックチェーン、資産価値のあり方を変えるかもしれないと話題のNFTなど、大転換点を迎えている金融業界でエンジニアに何ができるのか? 同社取締役CTOの仲野谷宗図氏(写真左)とテックリードの黒田正文氏(写真右)に話を聞いた。
トイウェア株式会社は日本の金融ITサービス企業大手、シンプレクス出身のメンバーが中心になって2017年に創業。以来、金融システムのSI/受託を中心に実績を重ねてきた。
金融業界というと、枯れた技術を使った堅実なシステムのイメージが強いが、近年はFin Techの台頭などで、最新技術の活躍の場も増えている。
トイウェアでCTOを務める仲野谷氏も、シンプレクスでリテール向け金融WEB取引システムやBTCウォレットのアーキテクト、さまざまなプロジェクトで開発責任者を務めた後、創業に参画したメンバーの一人だ。
「現在の弊社にはメインの事業は二つあって、一つは金融系の受託開発サービス。 FX や仮想通貨の取引所、金融機関に向けたシステムを受託開発でやっています」
「受託」というと、「下請け」的なイメージを抱く人もいるかもしれないが、トイウェアでは、プライムコントラクタと直接やりとりをして、事業計画の時点からブレーンのような立場でコンサルに入り、システムに落として開発、運用、保守までを一気通貫でトータルサポートしている。
「シンプレクスからスピンアウトしたという関係性もあり、技術やノウハウはもちろん受託先の企業さんと横並びで開発を協業していくという色合いが強いんです」
もう一つの事業の柱は、近年注力し始めている自社開発サービスだ。
「コミュニティアプリの開発ですね。事業規模からしたら金融の受託開発が主力なのは変わりませんが、ここで培った技術や知見をもとに、自分たちが面白いと思ったサービスを開発するということを進めています」
今回はトイウェアの主力業務でもあり、多くのプロフェッショナルがそろっている金融系業務の話を中心に掘り下げていく。
2000年代前半にアメリカで登場した金融(Finance)×技術(Technology)=Fin Techという概念は、インターネット、スマホなどの技術の発達によって、私たちの生活にも関係する世界を変えるキーテクノロジーの一つになった。
金融業界というとエンジニアにとっては、「専門的知識が必要で、技術的にも堅実さ、堅牢さが求められる業界」というのが定説だったが、ビットコインやブロックチェーンが脚光を浴びることで、最新の技術をいち早く取り入れる最先端の業界という側面も生まれてきている。
仲野谷 今もまさに進化の途中、大きく変わっている業界であるという点には、やりがいを感じますね。弊社では現在、仮想通貨領域に注力して事業を展開していますが、最新の金融テクノロジーを学べることはエンジニアとしての価値を高めることに直結すると思います。
── 金融業界が大きく変わっているというのは、たしかに新たな魅力ですよね。こちらについては受託/SIとしての業務になりますが、どちらかというとネガティブにとらえられがちなSIerであることも、メリットと感じる部分があるとか。
仲野谷 先ほどもご紹介したように、下請け的な動きではないという点が一つですね。もう一つ、弊社の受託事業に関しては本当に金融に特化しているという特徴があります。開発だけを見ると、たしかにレビューとかルール、設計に至るまで踏まなければいけないプロセスは多いですし、他の業界に比べて制約も多いのも事実です。ただ、これって、金融業界が品質重視の開発手法をとっているからとも言えるんですね。日本の大手金融機関、金融業界のトッププレーヤーがどんなシステムを求めていて、その要求に応える品質を保つためにはどんな開発プロセスが必要か、どんなテストを行って、その結果をどう分析しているのかっていう手法を細かく学べるチャンスでもあるんですね。
── 新規参入、ベンチャーでは学べない部分。技術者としてはそこを学べるチャンスでもあるということですよね。
仲野谷 そうですね。金融業界のエンジニア募集って、ほぼ間違いなく「金融経験の有無」を問われるんですよね。金融機関が使うようなシステム開発は経験者しか採用されないのが常識で、逆に言えば金融業界でのエンジニアとしての経験が自分の商品価値になるという。
── 御社のエンジニアも経験者ばかりですか?
仲野谷 いいえ。その点は受託開発ということもあるので、専門知識などはなくても一から学んでいけばいいというやり方ですね。シンプレクスもそうですが、アクセンチュアや証券・仮想通貨業界出身者など、金融・システムをバックグラウンドに持つ人材がコアメンバーではありますが、エンジニアは業界未経験者ばかりで、金融システム開発のノウハウを学べる場になっているということはあるんじゃないかと思います。
── 仲野谷さん自身も、大学院では全く違う分野を専攻していたとか。
仲野谷 大学院では、分子生物学を研究していました。卒業したらアカデミックな領域で研究者を志していたんですが、研究職のある意味閉ざされた環境というより、もっと広い世界で活躍する方法はないかなと思って、自分の将来を一度ゼロベースで考えてみようと思ったんですね。自分が研究を通じて獲得した論理的思考、さまざまなことに対する問題解決に興味があるという特性を考えたとき、それを生かせる職種は何か? 考えている中で、自分の興味も含めて最初に出てきたのが IT だったんです。ITなら自分の論理的思考をうまく生かしつつ、上流から下流まで、目に見えるかたちで関われるんじゃないかと思ったんです。
── それでシンプレクスに入社する。
仲野谷 特に金融系をやりたいというモチベーションで入社したわけではないのですが、エンジニアとしてスキルを上げていく中で、人と違う価値を出せる領域を持ちたいという気持ちがありました。社会の中で普遍的なスキルを身に付けられる業界がいいなと思っていて、そこで金融はどうだろうと思ったんです。古くから続いている伝統ある業界でありながら、ITによって進化せざるを得ない状況にもある。そんなこともあって、金融に特化して SI 業務を行うシンプレクスに入社しました。
── 独立というか、創業についてはどんな経緯で?
仲野谷 代表の岸(卓甫)と、起業を決めたとき、投資家を集めて99%の株式を渡してしまって新規事業を行う、アイデアベースで起業するようなやり方では自分たちのやりたいことは実現できないよねという話はしていたんです。
自分たちもこれまでの実績で、受けた仕事を全うできる自負あったので、従来の下請けとは違ったSIerとしてスタートしました。
金融業界は参入障壁も高くて、入るのまでが難しいというのもありますし、自分たちには前職で得た信頼がすでにありました。ある意味では属人性の高い分野なので、まずは自分たちが目に見えているところから始められたということで創業時に不安はなかったですね。
── 現在は社内でどんな役割を担われているのですか?
仲野谷 CTOとしては、 SI案件のトップとして開発プロジェクトをまとめる役割です。新規案件だったり、自社開発のアーキテクチャだったりを取りまとめ、方向性を決めたり、使用技術の選定、新規開発であれば見積もりなども含めて横断的に行っています。
もう一つの仕事は5~6人のプロジェクトチームの案件に入って、テックリードとして働いています。
── 実際のプロジェクトで、現在はフルリモートとのことですが、難しさはありますか?
仲野谷 コロナ禍ということもあって、フルリモートということでコミュニケーション面で難しいところはありますね。弊社は、どちらかというとコミュニケーションスキル重視で人材を選定しているところもあって、チーム内でもコミュニケーションは大切にしているんです。月に2回、出社日を決めてランチミーティングをしたり、週に2回はプロジェクトごとにオンラインミーティングを行うなどの工夫をしています。
トイウェアでは、5~6人のプロジェクトチームが案件によって複数同時進行している。仲野谷氏同様、テックリードとしてチームをまとめる黒田正文氏は、2018年の3月、創業1年後に入社したメンバーだ。
金融未経験から現在は金融系のSI業務を主導する立場にある黒田氏にも、ご自身の経験を語っていただいた。
黒田 トイウェア以前は外資系も含め3社経験していました。1社目のクライアントに大手金融機関があったという接点はありましたが、金融業界のエンジニアとしての経験はゼロで転職してきたんです。
── 金融業界のシステムなどは専門知識が必要だったり、用語が独特だったりと言うことを聞きます。その点の戸惑いはありましたか?
黒田 業務の中身についての知識はゼロに等しかったのですが、特に戸惑いはありませんでした。金融的な知識がないからすごく困ったという経験はないですね。
やりながら覚えていくというか、専門用語も調べればある程度はわかりますし、わからないことがあれば聞ける人が身近にいたというのが大きいのかもしれません。
── 仲野谷さんはじめ、金融システムのプロフェッショナルがすでにいたことで学べる環境があった?
黒田 それはあると思います。金融業界だからというのは、求められる水準が高かったりテストがきっちりしていたり、障害が起きない強固なシステムにしなければいけないとか、そういう点で気を遣うというか、やらなければいけないことはあると思いますが、やることが違うかというとそこは同じなので。
それよりも、前職の3社と比べて平均年齢も若く、同年代の人がたくさんいて風通しのいいフラットな組織だという「いい違い」の方を強く感じました。それまでは大手と呼ばれる企業で働いていたので、福利厚生など安定している反面、業務が固定してしまっていてチャレンジがしづらいなと感じていました。トイウェアでは、金融という自分にとって未知の世界にチャレンジができましたし、自社サービスという会社としての新しいチャレンジもあります。
── 黒田さんのチームはだいたい同年代で構成されているんですか?
黒田 30代中心ですが、20代のエンジニアもいます。仲野谷の話にもありましたが、フルリモートの中でも、Slackをベースに、業務以外にもなんでも話せる場所があったりして、フラットでオープンな組織という印象はずっと変わっていないですね。新しく入った人についても金融知識の部分も聞きやすいし、なんでも発言できる風通しの良さはあると思います。
金融業界の頼れるSIerとして信頼を重ねてきたトイウェアだが、業界自体が大きく変わる中、今後の変化への適応、自社の成長をどう見ているのだろう? 最後に仲野谷氏に聞いた。
仲野谷 ビットコインだったりイーサリアムだったり、暗号・仮想通貨が今後、発展普及していくことを見据えて、ブロックチェーン、DeFi(分散型金融)の技術には必然的に対応していくことになります。最近話題のNFTによるアートなどをデジタル資産として取引する仕組みみたいなブロックチェーン上で作られる新しいアプリケーション開発などはパートナーである企業と一緒に、積極的にチャレンジしていく分野になると思います。
受託と並行して行っている自社開発サービスについては、SIとして得た知見や技術、ノウハウを転用できるというメリットがありますので、最先端技術をこちらにも生かして、自分たちがやってみたいこと、クライアントが実現したいことを世の中の役に立つことをどんどんやっていけたらと思っています。
── 受託開発で、しかも金融業界で最新技術に触れられるというのはエンジニアとっても魅力的ですね。
仲野谷 これまでのイメージというのはあるかもしれませんが、われわれは常に新しいことにチャレンジできる環境にありますし、SI業務だからこそ得られる部分があるのが金融業界の面白いところです。これに加えて自社開発にはもちろん自由度がありますし、「エンジニア35歳定年説」があるからある程度の年齢になったらもうついていけないというのではなくて、自分も含めてすべてのエンジニアがいくつになっても挑戦し続けられる会社でありたいと思っています。
ライター:大塚一樹