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■CTO名鑑
2023.07.24 2024.05.01 約5分
自分のキャリアロールモデルを探すITエンジニアのためのCTO名鑑シリーズ。今回は、株式会社enechain 須藤 優介氏を特集します。
― 簡単に事業内容を教えてください。
須藤:簡単にいうと「エネルギー取引のマーケット」を作っています。電力市場には小売市場と卸市場の2つがあり、現在 enechain がメインターゲットにしているのは卸市場です。
― 電力の卸市場?
須藤:はい、電力の卸市場って面白いんです。実は電力って日々、価格が大きく変動するので、その価格のまま仕入れると、電力会社は大きなリスクを抱えることになります。海外だとアメリカのインターコンチネンタルエクスチェンジ(ICE)などによりリスクヘッジマーケットが提供されているのですが、日本ではヘッジマーケットが存在していませんでした。
ー そこをスタートアップである enechain が担っている?
須藤:はい。日本の電力市場は単一市場の需要規模としては世界4位の巨大産業。時価総額は数兆円の世界です。スタートアップにとってはダイナミックなチャレンジですよね。
ー 2019年創業から数年で急成長を遂げています。どうお考えでしょうか。
須藤:そうですね、資金調達が一つのトリガーポイントになったのは間違いないのですが、そこに至るまでに大手電力会社が弊社マーケットに参加していた点と、取引の土壌がしっかりできていた点は大きいかなと。私が面接を受けたときには、システムもミニマムながら整備されていて、電力取引の流動性も徐々に生まれてきていました。「これは事業として成功する」と感じました。
― エンジニアにとって enechain の事業の面白さは?
須藤:国のインフラをつくっているような感覚を体験できるところでしょうか。いつか廃れるようなサービスではないので、すごく面白いし、やりがいもあります。
エンジニアとしての力量を問われる「長く続くシステムをいかに作るか?」というテーマに向き合える事業です。最近は取引量やデータ量が増加しているので、処理速度を求められたり、エンジニアとして楽しむべきポイントが結構たくさんありますよ。
ー 「作って試して捨てる」ではないプロセスを楽しめると。
須藤:そうですね、逆にいえば、テストやセキュリティに意識を向ける必要があるともいえますね。
― 新しい技術が定期的に取り入れられない状況でも、エンジニアとして楽しさは感じられますか?
須藤:現時点では比較的、新しいことにチャレンジできている状況なので、楽しさはあると思います。ただ今後は、意志を強く持たないといけないと思います。時にはチャレンジの機会を多少減らしても、全体としてのガバナンスを優先しないといけない。
― インフラ事業ならではのバランスですね
須藤:一方、技術にチャレンジしない組織・プロダクトが停滞する場面も見てきたので、そこは適切にチャレンジのバランスを設けていくつもりです。技術的に遅れをとると、モダンなツール郡の恩恵を受けられないだけでなく、採用も出来なくなります。本気で長期運用を考えるならば、新しい技術を柔軟に取り入れる姿勢や、取り入れられるシステム構成が重要になります。
― 求人票を見てみると、普通にモダンな技術が目白押しですよね
須藤:React や Go はメリットも大きいし、採用できるエンジニアの質を考えても、今できるベストな選択だと思っています。新しい言語を取り入れることだけが挑戦でもないですしね。
ー ところで enechain 入社から、たった半年でCTOに就任されています。元々CTOを意識されたご入社だったのでしょうか?
須藤:前職がCTOなので、もしかすると社長は多少意識していたかも知れません。自分自身は、とくにポジションへのこだわりはなく、本当に一人のエンジニアとして事業に魅力を感じて入社しています。
ー CTOの打診があったのは、どのタイミング?
須藤:うちの会社は全社員合宿があるのですが、その前後だったかと。合宿で「CFO・CTOを発表するよ」と通達があり、本当にCTOになる直前の出来事でした。
ー なるほど、CTOになられてからはどういった取り組みをされたのでしょうか?
須藤:入社時は新規事業の立ち上げのマネージャーを期待されていたのですが、単独で動くうちに採用の比率が高くなっていきました。社内で求める人材像の認識を統一したり、カルチャーづくり、評価制度の構築、自分自身でも人を引っ張ってきたりと、とにかく採用業務をこなしましたね。
― CTOとはいえ、ジョインしたての須藤さん。カルチャーづくりは、かなり苦労されたのでは?
須藤:そうですね。カルチャーづくりって、自分ひとりで突っ走れないじゃないですか。メンバーからの納得感がないと成り立たない。だから時間をかけてみんなの意見を聞きながら整備していきました。あとは勉強会や enechain Tech Blog をはじめたり、技術力のある人材が集まるような土壌も整備しました。
― かなり徹底して採用に注力されていたのですね。ところでCTOといえば、テクノロジー責任者のイメージが強いのですが、採用に専念している間、技術的な部分は、権限委譲されていたのでしょうか?
須藤:そうですね。入社半年の間にEMとして React / Go の採用など技術的な部分には関わってきたのですが、CTOになったときには優秀なメンバーが相当数増えていたので、権限委譲に近い体制を構築できていましたね。
― なるほどー!!ちなみにどれくらいのエンジニアを採用されたのでしょうか。
須藤:そうですね。2年弱で約30名ほどエンジニアを採用できました。開発スピードと品質は圧倒的に上がり、1年前とは比べ物にならない数のリリースを実現しています。
▲enechainの掲げる5つのValues
― 急速に人員を増やし、新たな組織体制を築いていく過程で、既存メンバーからの賛同は得られたのでしょうか。既存の体制を変えようという意識は誰もが持っていたのでしょうか?
須藤:全員が「このままでは問題だ」と感じた瞬間は明確にありました。普段エンジニアに対して厳しい発言をあまりしない野澤(代表)が、一度だけ「さすがにこの進行は遅すぎるのではないか?」という旨の指摘をしたことがあります。当時の開発組織も、全員がプロダクトに誠実に向き合っていました。しかし、ビジネスサイドのスピード感・本気度と比較した時に、期待に応えられるだけのアウトプットは出せていなかったと思います。その後プロジェクトマネジメント手法や姿勢を見直し、うまく改善に向かいました。その当時の出来事はメンバーの意識を変えるきっかけになったと思います。
― 野澤代表は普段は「見守り系」なのですね。
須藤:開発については、そうですね。エンジニア達の意見をかなり尊重してくれていると思います。ただこれも一長一短というか……。enechain の掲げる Values の中に「余白 。」があるのですが、これって、みんなが頑張る前提なんですよね。性善説経営の考え方が根本にあるからこそ「頑張りすぎないように余白を大事にしよう」と掲げているんです。ただ、当時は人によって捉え方が結構バラバラというか。
― なるほど。「余白」だけに目が向いてしまったと?
須藤:そうですね。カルチャーの捉え方の難しさを感じました。半年間大きなリリースが出来なかったこともあります。
― スタートアップで半年は長いですね。それはインフラビジネス故の堅牢性などが原因なのでしょうか。
須藤:それもあります。時間のかかる大規模なプロジェクトでした。しかし、進め方や意識の持ち方にも課題があったと思います。当時は私自身もカルチャーの捉え方に悩んでいて、会社にとって何が正解なのか、どう振る舞うべきなのかは手探りの状況でした。代表の一声で目指すべきカルチャーを認識してからは、私を含めたマネージャー陣でカルチャーの刷新に向けて全力を注ぎましたし、メンバー皆の動きも速かったと思います。
― なるほど。そんな状況からのテコ入れ作業、ご苦労は想像に難くないですね。そういったエンジニア組織の改革を経て、現在はどのような役割なのでしょうか。
須藤:ひとことで言うならアーリーステージのスタートアップなので、やるべきことをやるの繰り返しです。テクノロジー本部の責任は自分が全て持ちますし、経営者としての役割もあります。
― テクノロジー本部の責任とは?
須藤:プロダクトが事業の中でも重要なポイントになるので、基本的にはプロダクトリリースのコントロールです。プロダクト開発と運営を支えること。
― インフラ事業において品質担保は必須ですが、開発で意識していることは?
須藤:技術基盤やガバナンスの効かせ方は意識しています。自由にポンポン立ち上げるというよりは、共通の基盤の上で同じ構成・同じデザインシステムを使うことを意識しています。
― enechain CTOとして、ご自身の力不足を痛感したエピソードはありますか?
須藤:OKRとして設定した開発スケジュールがそのまま顧客に伝わってしまい、開発メンバーも営業メンバーも苦しめてしまったことがあります。社内では大胆な目標を掲げつつ、顧客への約束においていかにリアルなスケジュールを引くのか、それをどうメンバーに理解してもらうのか、そのあたりを真剣に考えるきっかけになりました。
― 言語化する難しさですね。
須藤:そうですね。あとはメンバーとのコミュニケーションでしょうか。
特にEMの育成は手探り状態でした。自分自身が感覚でやっていることを人に伝えようと思うと、なかなかうまく伝えられない。言語化・仕組み化が出来ない。
― 具体的なエピソードはありますか?
須藤:例えばEMとのコミュニケーションの中で、「こういう時は当然これをやるだろう」という暗黙の期待を持ったまま接していました。それで、抜け漏れが出てしまう。今考えると、コミュニケーションが足りていませんでした。ただ、全ての業務をフレームワークみたいに形式的に管理出来るものでもないので、思想を伝えて柔軟に対応してもらわないといけないんですよね。これが難しい。
ちょうど自分と横並びのビジネスサイドの方が、マネージャーとしての指導や言語化がうまくて、「このレベルまでできていないといけないんだなぁ」と感じたことを覚えています。
― そうした経験を踏まえて、振る舞いを変えていったのでしょうか。
須藤:「相手に対する期待と相手の振る舞いは、自分の中で十分に言語化できているのだろうか」と常に考えるようになりました。最近は、指導する前に自分の中で言葉にすることを心がけるようにしています。
期待通りでなくても、相手の振る舞いの中には、私自身ができていない部分のフォローがあったりと、期待を超えている部分もあったんですよね。
― 他者のマネジメントスタイルを言語化するなかで、自分自身のマネジメントスタイルも言語化できたと。
須藤:仰るとおりです。
― CTOとして困難に直面したとき、支えてくれるエンジニアの方はいますか?
須藤:たくさんいますね。ずっと仲がいいのはインターン時代からの親友で「REALITY」というサービスを運用している清さん。だいたい私と同じくらいの規模の組織をリードしていて、同じような課題を抱えていると聞くだけでも「そうだよね!」と救われるし、学びになります。
エンジニアを目指すきっかけのインターンでお世話になった元VOYAGE GROUP の小賀さん、新卒時代からお世話になっているグリー藤本さんは、アーリーステージからの会社の成長を経験されている方なので、相談に乗ってもらえるのは非常にありがたいです。
ほんのわずかなアドバイスでも深く胸に刺さることがあります。
ずっと仲の良い友人 | REALITY シニアマネージャー 清 貴幸さん
エンジニアとして育ててくれた恩師 | グリー株式会社 CTO 藤本真樹さん エンジニアとして育ててくれた恩師 | LayerX VPoE 小賀 昌法さん |
― 過去を振り返って、今のキャリアにつながる一番大きな意思決定は何でしょうか。
須藤:キャリアに悩んで自分を見失っていたときに、とても良い出会いがありました。
グリーでエンジニアマネージャーだった時代、若い世代のなかでいち早く成果が出てしまい、実力以上に評価されて天狗になってしまったんです。「ここで学べることは学び尽くした」「自分はもっと上にいける」と思ってしまっていました。今思えば明らかに周囲の方々の支えがあっての成功だったのですが、恥ずかしい限りです。周りから見ても寒かったと思います。そんなとき、ビズリーチの面接を受けたんです。そこで「須藤さん、かなり自分を見失っていると思う」「君にとって何が一番大事なのか考え直して欲しい」とフィードバックされて、ハッとしました。(当時ビズリーチで開発部長だった鈴木さんでした。)
ただの採用候補者と面接官という関係だったのに、その後複数回にわたってキャリアの相談に乗ってくださいました。改めてキャリアを見直したときに、評価されることよりも「何かを作って人を喜ばせる」ということが自分にとって大事だと気が付きました。給料やポジションはどうでもいいから、とにかく自分のやりたいことを改めて考えてみたんです。そこで吹っ切れて、余計な考えは削ぎ落としてエンジニアとして初心に返りました。そこからは周囲の方々も熱い気持ちで自分と向き合ってくれるようになって、良い出会いも増えてきました。
― enechain 入社時の話を伺っても、ポジションにこだわりはないと仰ってましたね。
須藤:はい。メンバーでもマネージャーでもなんでもやりますよという気持ちで、オファー額もあまり気にせず入社しました。今は CTOという立場ですが、あれは自分のキャリアにおける大きなターニングポイントになっています。
― 素晴らしい出会いがあったのですね。本日はありがとうございました!
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