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■CTO名鑑
2022.12.07 2024.05.01 約5分
自分のキャリアロールモデルを探すITエンジニアのためのCTO名鑑シリーズ。今回は、CARTA HOLDINGS 鈴木健太氏を特集します。
鈴木:CARTA HOLDINGS で CTO を務める鈴木と申します。よろしくお願いいたします。
— 鈴木さんは、2022年1月に新 CTO に就任されたのですよね。このあたりの経緯を伺えますか?
鈴木:はい。10年以上、CTO を務めた前任の 小賀 昌法 から引き継いだ形で CTO に就任しました。CARTA HOLDINGS は、2019年に VOYAGE GROUP と CCI が経営統合した会社で、主にマーケティング領域の事業を展開しています。
— 多くのエンジニアが影響を受けたであろう書籍 Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち を読んでも、VOYAGE GROUP はかなり開発カルチャーの強さを感じます。この点、前任からCTOを引き継ぐ際に相当プレッシャーを感じたのでは?
鈴木:やっぱり自分自身が元々 VOYAGE GROUP にあるエンジニアリング文化で育ってきて、その文化がすごく好きなので、より文化を伸ばしていきたい気持ちが強かったです。
今年5月に発表した CARTA Tech Vision は、CARTA HOLDINGS のエンジニア組織、ひいてはテクノロジーに関する将来への指針なのですが、これまでの積み重ねがあったので比較的スムーズに言語化できました。
もちろんプレッシャーもあったけど、この CARTA Tech Vision がスっと組織に入っていったような感覚があったんです。そのときに「みんな思いを共有していたんだなぁ」と、感謝しましたね。
— カルチャーの面では書籍 Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち の新版である事業をエンジニアリングする技術者たち ― フルサイクル開発者がつくるCARTAの現場の副題に入っている「フルサイクル開発者」も特徴的です。CARTA HOLDINGSにおけるフルサイクルエンジニアリングについて教えてください
鈴木:開発チームがオーナーシップを持ち、開発・デプロイ・リリースをし、直接フィードバックをもらう。そして改善に変えていく。このサイクルを、フルサイクルエンジニアリングと呼んでいます。
元々は Netflix のエンジニアブログ内で登場したワードでしたが「まさにうちがやってること、そのままだね」と、当時の VOYAGE GROUP のエンジニア達が解釈し、取り入れました。
「機能は作れるけど、やってみないとわからない」という開発の流れの中で、フィードバックってものすごく大切ですよね。数々の失敗を積み重ねてきた VOYAGE GROUP だからこそ、このスタイルが磨かれていったような気はしますね。
— 実際にCTO に就任され、まもなく1年が経過しますが、現在はどのような取り組みをされているのでしょうか。
鈴木:現在は「CARTA HOLDINGS として、エンジニア評価制度やカルチャーをどうするべきか」という課題に取り組んでいます。
元々 VOYAGE GROUP は、小賀を中心に技術評価会やエンジニア評価制度を構築してきた開発カルチャーの文化が強い会社なんです。僕自身も2012年に新卒エンジニアとして入社し、その環境で育ってきました。そこに CCI の新たなカルチャーが加わり、エンジニア組織としてどうあるべきか、どう強化していくかを改めて構築しているところです。
個人のミッションとしては、採用・育成をはじめとするエンジニア組織の強化、あとは事業全体でテクノロジーが有効活用されることですかね。
— なるほど。経営統合によって感じる課題はありますか?
鈴木:書籍 Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち でも紹介しているのですが、開発チームが直接、市場やユーザーからフィードバックを受けて改善するような体制になっていることもあって、各エンジニアがオーナーシップを高く持っていて、非常にパフォーマンスの高い開発チームが生まれてきています。一方で、チーム間を横断した情報共有には、改善の余地があると感じています。
— 今回の経営統合で開発チームはどのくらい拡大したのでしょう?
鈴木:はい。170名( VOYAGE GROUP 120名: CCI 50名)ほどに拡大しています。
そんな中、コロナの影響でハイブリッドワーク(テレワークとオフィス出社の組み合わせ)が浸透し、他チームとの関わり合いが薄くなっていると感じますね。開発は開発チームだけでは成り立たないので、会社全体で起きているダイナミズムや他チームの取り組み・工夫を、もっとお互いに共有し、イノベーションを起こしていきたいですね。
— 経営統合に絡めてもう1つ質問です。 VOYAGE GROUP のカルチャーの強さゆえに、CCI 側のエンジニアは、気後れするのでは?
鈴木:カルチャーって善し悪しではなく、組織が大事にしていることそのものを指すのかなと思っているんです。
CCI も1996年からある会社なので、しっかりとした文化があるんですよね。一方、 VOYAGE GROUP は、言わば「ごった煮」。これまで100以上の事業が立ち上がっては消えていき、非常にトライアンドエラーが多い組織です。その都度、チームのミッションやバリューを構築していった歴史があるので、確かに経験値は豊富かも知れません。つまりどちらのカルチャーが良い悪いではなく、経験の差を感じる現場はあったかなと思います。
— この1年で印象に残ったCTOとしての失敗はありますか?
鈴木:小さな失敗を結構積み重ねている実感はあります。やっぱり新しい事業を立ち上げていくときに、どうしてもエンジニアが足りない。じゃあどうしようかと考えたときに、社内メンバーの力を借りる、業務委託の方と手を組む、外注する、いろいろな方法がありますよね。
今回、いくつかの事業で外注を選択したのですが……VOYAGE GROUP 時代から、どうしても自分たちで全部やってしまおうという文化があったため、外注ノウハウがあまり無かったんですね。だから何をどこまで依頼し、期待し、コントロールすれば良いのか、失敗と改善を繰り返しましたね。
— 鈴木さんが思い描く理想のエンジニアリング組織とは?
鈴木:人が育つ組織が理想ですね。社内のどのチームに行ってもエンジニアとして成長できる、キャリアを築くことができる環境。真剣に楽しく働いて納得いくものが作れる組織、チームがたくさんある状態を目指したいです。
あとは CARTA Tech Vision で掲げているのですが、時間を無駄にせずクリエイティブな仕事をしていこう、と。やはりテクノロジーって、人間の生活や仕事に間違いなく役に立っていると思うんです。テクノロジーをより活用するためには、それを実現する力が絶対に必要です。最強最高な組織を作るためにテクノロジーによる実現力を伸ばしていきたいですね。
— 時代をつくっていける組織ですね。
鈴木:そうですね。BtoB事業をはじめとし、いろいろな会社と一緒に仕事をしていますが、自分達が介在することで今までに無かった価値を提供できることが理想的ですよね。
— Forkwell を運用していると人事の方から「ビジネスに興味を持ってくれるエンジニアが欲しいんです」という切実な要望を頻繁に聞きます。Sansan CTO の藤倉さんも対外的に「エンジニアはビジネス視点を持つべきだ」と強く発信されていますよね。エンジニア採用において、このあたりの要素はどうお考えですか?
鈴木:そうですね。採用で「テクノロジーだけをやりたい」という方は、CARTAに来てもやりたいことができないかもしれないですね。サービス指向(サービスあるいはチームに対して貢献したいという嗜好性)がある方だと、相性が良いのかなと感じますね。
— CARTA HOLDINGS にいると、自然とそういったマインドが育ってくる?
鈴木:環境で育つ部分もあるかもしれないですね。もちろんエンジニアである以上、専門性は尊いものですし、プログラミングをして何かが動くってすごく楽しい。だけど事業の中でプロダクト開発を進めていくと、どうしても事業について知る必要が出てきます。だからチームで成果を出そうすれば、必然的に事業に対してオーナーシップが生まれるし、そういうチームが集っている感覚はありますね。
— 鈴木さんが思い描く良いCTOとは?
鈴木:ビジョンが明確なこと、可能性を引き出すこと、の2つですかね。
現在、エンジニアが170名を超え、マネジメントごしのマネジメントをしている状態なんですね。だから、エンジニア一人ひとりに対して、きちんとビジョンを示して実行できること、人を惹きつけられること。ここを大事にしています。あとは、人やテクノロジーの可能性を引き出せる人が良いかなと思います。僕らは未来に向けて、やったことないものや見たことのないものの可能性を信じて仕事をしているんです。だから、その人と仕事をすることで何かが拓けていくような人っていうのは理想的かな。
— 理想像を実現するために意識していることはありますか?
鈴木:すごくシンプルですが、まずは話を聞くこと。1on1を通じて普段、何を感じているかなど、とにかく相手を知るようにしています。自分の打ち出しているビジョンが現場の温度感や事業が直面している状況にあっているのかは気にするようにしています。
ちょうどいま技術力評価会の時期なんですが、半年に1度、各エンジニアがなにをやっているかレポートがあがってくるので、全てに目を通しています。
あとは競合や市場でどのようなサービスがあり、どのようなテクノロジーのアプローチをしているか、いまCARTAがとっているアプローチは最適なのか。外のことも知るように心がけています。
自分の感じていることを積極的に発信すること、言語化を大切にしています。組織や働く環境、経営をどうしていくか、本を読んで感じたこと、どんな気付きがあったか……そんなことでも、こまめに発信してシグナルを伝えるようにしています。
— 「聞く・知る・伝える」ですね。単語で切り出すと当たり前に見えるけど奥が深いですよね。
鈴木:すごくわかります。
昨年までプロダクトチームにいたのですが、現在は各プロダクトチームのマネージャーを介して組織全体をマネジメントしているんですね。人との関わり合いが間接的になったので「どうしていこうかな」と悩んだ時期もあったんですが「聞く・知る・伝える」は、どの現場でも共通認識されていて。結果的にはあまり変わらなかったですね。
— CTOを目指すなら、これは学んでおけ!ということはありますか?
鈴木:どのサイズの CTO を目指すかによりますよね。僕は3回 CTO を経験していますが、会社の規模もバラバラだったので……「とりあえずやってみたら?」に尽きるかも(笑)でも、どのサイズにも共通しているのは、メンバーを信頼し信頼されること。
僕の場合は、 VOYAGE GROUP時代から10年以上、社内のあらゆる開発メンバーと仕事をしてきた積み重ねがあります。だからゼロベースではなく「あぁsuzukenね」の状態から、CTOをスタートできている。ジャンプアップではなく、信頼された状態でスタートできているのは、僕の財産ですね。
— 信頼する・信頼されるために、大切なポイントは?
鈴木:「信頼していますよ」って毎日、口に出していうことでもないから(笑)態度で示す、伝えることを心がけています。「凄い仕事ですね」「自分じゃ考えつかなかったです」と、褒めること。あとはマネジメント寄りの話になりますが、任せること。API ひとつ作るにしても、きっと自分で作る方が早い。でも、勇気をもって任せていく。そうすると相手は「信頼してくれてるんだな」と感じてくれますよね。そういう風に信頼のネットワークを濃くしていくことを意識してました。
ただそれも手放しではいけなくて、ちゃんとサポートする必要がありますよね。任せたなら自分も責任持って最後まで見届ける。それを続けていくと「鈴木さん、ちゃんと僕に任せてくれるんだな」って思ってくれるし、信頼されることにも繋がると思います。
— 権限移譲の際に、相手がこれくらいできるであろうという予測を立てるコツはありますか?
鈴木:難易度の調整ですよね。まず、その人のコンフォートゾーン(安全地帯)がどこなのかを知るところからはじめますね。ただスピーディーに移譲を実施したいときって、なかなか相手の全てを知る時間がないと思うので、そんな時は課題設計から一緒に巻き込みます。
例えば「フロントは割とできるけど、バックエンドってあまりやったことなくて……」と不安に思ってるなら「じゃあバックエンドは、自分と一緒にやってみようか」といった感じで、自分と一緒に進めることで難易度を下げたりしますね。
みなさん自分で勝手に限界を決めて、自分にはできないと思ってしまうこともあるんです。例えば権限移譲したい方をAさんとしましょう。チーム内の別の人が問題を解けるなら、Aさんも解けるようになるはずです。
Aさんが問題を解けるようになるためには、このような方法が有効です。
Aさんを導くための道筋を、マネージャー以上がどれだけ持てるか、またAさんがコンフォートゾーンから勇気を持って踏み出そうとしているかを見極めるのが、マネージャー以上、CTOの仕事ですね。
スキルや経験がないからできないものは、逆にいえば経験すればできること。0を1にするチャンスです。むしろ大切なのは、その人がやりたいと思っているかです。
— 最後にこれからCTOを目指す人へメッセージをお願いします。
鈴木:そうですね。
そんなに怖がらずに、小さなことでも良いのでチャレンジしてみて欲しいです。
CTOは、技術者として最も組織で信頼される人です。小さくても良いので何かをリードしてみたり、オーナーシップを持って意思決定をたくさん積み重ねてみてください。積み重ねが結果的に連続的になる。そこから CTO に繋がっていくんじゃないかなと思うので、ぜひトライしてみてほしいです。
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