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ベストプラクティスはWeb系企業で育まれている〜三菱重工業のDXを支える学びの姿勢〜 川口賢太郎、森岡周平(三菱重工業株式会社)

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DX化やエンジニア採用を強化する三菱重工業。今回はデジタル部隊の中心人物である川口氏とゲーム会社やWebベンチャーを経て異色の経歴を持つ森岡氏に「三菱重工のDX」について伺いました。

数十年稼働する機械だからこそデジタルでお客様と繋がる

──重工業最大手でもあり「機械のデパート」とも形容される三菱重工。その名前を知らない人は中々いないかと思いますが、実際どういうものを作っているのかまではイメージを持っている方も少ないと思います。まずは御社の事業について教えてください。

川口:発電設備のパワー、産業機械のインダストリー、航空・防衛・宇宙が主な事業領域です。

特定の製品の専業メーカーではなく、数十の製品事業から構成されています。

──やはり名の通り、機械に強い御社ですがその中でDXを推進する部門が出来た背景について教えてください。

川口:元々は三菱重工で数十の製品事業を営んでいましたが、機動的に事業経営をしていくために、15年ほどかけて事業子会社化を進めてきました。そのような背景下、ITのなかのいわゆるビジネスITの領域については、事業子会社で取り組むことを基本としていました。

一方で、お客さまとデジタルでつながっていくことや、IoTやAIを活用していくことの重要性が高まるなかで、事業子会社毎で取り組んでいくことはかならずしも効率的でないといった新たな課題も見受けられるようになってきました。

そこで事業子会社のデジタル化をハンズオンで推進することを目的として、3年前に出来たのが私たちの組織です。どのようにデジタル化を進めていくかといった企画から、システムの開発や運用までを一貫して担っています。

三菱重工グループの製品はお客さまにご購入いただいてからお客さまのもとで数十年稼働するものが多くあります。これまでは、お客さまにご購入いただくまでの、設計や製造などのプロセスに重心を置いてきたこともあり、ご購入いただいてからのカスタマーエクスペリエンスに改善の余地が大きくあります。お客さまのエクスペリエンスをより良くする、そのためにもビジネスパートナーや社員のエクスペリエンスもより良くする、そのためにデジタルを活用する、そして事業の収益性を向上していくといったことが、この組織のミッションです。

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ベストプラクティスはWeb系企業で育まれている

──プロダクトのライフスパンが長いというのは確かに重工業の大きな特徴ですね。チームのメンバーは大半がエンジニアなんでしょうか?

川口:エンジニアが大半ですが、エンジニアといってもソフトウェアエンジニアだけではありません。事業会社と共同していくために、事業会社からのメンバーもこの組織に参画しています。したがって機械や電気などのエンジニアもいます。

そのような多様なメンバーから構成され、歴史も短い組織ですが、重視していることは実行して見える成果を出すことです。そのために、どうすればうまくできそうか学んでいくこと、学んでみたことをやってみること、仲間を引っ張って行くこと、社内外に見せていくこと、そこからのフィードバックをさらなる学びにしていくことを、組織の文化としています。

──お話をお伺いしているとかなり実戦的にアジャイルのプラクティスを活用されているなと感じました。従来の大手企業のイメージと大きく異なる印象なのですが、何故この様な取り組みが三菱重工では可能なのでしょうか?

川口:ビジネスIT領域に取り組もうとした際に、どうすればうまくできそうか学んでみました。技術にしても、組織運営にしても、組織文化にしても、ベストプラクティスはWeb系企業で育まれているなと。その良いところを取り入れていかないと失敗するという危機感を持ったり、取り入れていけば三菱重工をより良くできるという感触を持ったことです。

そして自分たちは企画までをやり、誰かに実行を託すというやり方ではなく、自分たちで実行に移せたのが良かったのかなと。スタートした当時は非常に小規模な組織でした。小規模でも自分たちで企画して試作して検証してという小さいサイクルを早く回したことが、今も活きています。

現在在宅勤務が主体となっていますが、Slackなどのツールもいろいろ整備していることもあり、コミュニケーションよく、小さいサイクルを早く回すことに変わりはありません。アンケートを実施しても、生産性は変わらない、コミュニケーションはより良くなった、といった声が聞こえてきます。

現場との距離感は二人二脚

──かなりWeb系ベンチャーのプラクティスを実践されているのですね。私が前職大手のメーカー勤務なので気になるのですが、本社主導のDXの様な取り組みは悪く言ってしまえば「本社が現場も知らず、流行りのDXとやらを持ち込んできた」といった反発があったりで理想はあっても定着するのが難しい印象なのですが、そうした課題はあるのでしょうか?

川口:現場との距離感は、二人三脚でも不十分で、二人二脚になるべきだと考えています。私たちの組織を二つの小組織に大別すると、一つがプロジェクトマネジメント(PM)、もう一つがプロダクトデベロップメント(PD)となります。

私たちは正しいものを正しくつくりたいと考えていますが、正しいものをつくるためには、まずは事業子会社の経営課題や業務課題を正しく理解することがなによりも大切です。そして私たちが正しいものをつくれたとしても、使われなかったら無駄なものになってしまうので、事業子会社の隅々まで浸透させていくことも大切です。

事業子会社を理解することと、事業子会社に浸透させていくこと、それがPM組織の役割となります。そして、その役割を担っているのが、事業子会社出身のメンバーです。理解と浸透を促進させるだけでなく、人と人の信頼がある状態でプロジェクトをスタートできることは大きなメリットだと感じています。

DXは目的ではなく手段

──現場を人単位で大きく巻き込むことを実現しているのが強さだと感じました。ちなみにここまでDXの推進についてお伺いしましたが、三菱重工にとってのDXとは一体どういうものだと定義されてますか?

川口:とてもシンプルに考えています。DXとは、お客さま、経営者・従業員、ビジネスパートナーが抱えているご不満などを解決すること、その手段にクラウドといった便利な手段を活用することと考えています。

以前は、課題解決のためにシステム化を図ろうとしても、大掛かりで大変でした。

しかしこの15年でクラウドが民主化した結果、時間も費用も敷居が低くなったと感じています。そして技術の取得も簡単になったので、自分たちで技術の手の内化もできると感じています。自分たちで出来るから、課題解決に継続的に取り組めるということが、DXの最大の利点だと思いますね。

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開発組織の向かう方向に共感が出来た

──さて、このあたりで森岡さんのお話もお伺い出来ればと思うのですが、まずは簡単にご経歴をお伺いさせてください。

森岡:最初はWeb系のベンチャー企業に入社してソーシャルゲームの開発などを行っていました。そこではRailsを使ってバックエンドの処理を書いたり、Mithril.jsを使ってSPAの管理画面を作ったりしていました。

その後、2社ほど中小規模のソフトウェアベンチャー企業で、AWS、GCPのインフラ構築、IDaaSの導入、Node.jsのサーバー構築などを経験してきました。

──直近が数十人規模のベンチャーかつキャリア的にもベンチャー志向の方なのかなと感じるのですがどういった背景で三菱重工さんにご入社されたのでしょうか?

森岡:転職を検討し始めたタイミングでたまたまスカウトを貰い、スカウトが来た理由が全く想像できなかったので興味本位で話を聞いてみた、という感じですね。実際お話をお伺いして、川口が目指している開発組織の方向性に強く共感をしました。それで入社を決めたという形です。

──ご経歴から考えると意外な選択の様にも思えますが、元々最初は同じ様な小規模企業で探していた中からの偶然の出会いみたいな形なのでしょうか?

森岡:転職の際には、会社の規模よりも、開発組織が目指している方向性に共感できるかを重視していました。確かに組織の規模によって働き方は少し変わるかとは思います。ですが、僕にとっては開発組織の目指す方向性の方が、自分のモチベーションに対する影響が大きいと思っていました。

──実際入社されて半年が経過して今の業務内容はどの様なものなのでしょうか?

森岡:最初は既存システムの自動デプロイ環境構築や、IaC、自動テストの導入などを行っていました。今現在は、IoTチームで産業機械のデータを可視化するシステムの開発に携わり、ソフトウェアエンジニア兼スクラムマスターとして業務しています。

──入社されてから意外だった部分などありますでしょうか?

森岡:完全にリモートワークで仕事ができるのはとても意外でした。月1〜2回稀に出社するくらいなので、入社して半年経ちますが未だにオフィスの場所を間違えたりしています。笑

あと、意外だったというよりは、とても良いなと思った点なのですが、私が配属されたチームには現場から異動されてきた方々が多くいます。そういった方々が今まさにJavaScriptやScrumなどの学習を積極的にされているのを見て、僕も頑張らねば!という気持ちにさせられています。

家くらいの大きさの機械とソフトウェアの組み合わせにワクワクする

──確かにそれは良い驚きですね。IoTチームにいらっしゃるということで今までのご経験から考えると単純にモノがあるという部分が大きな違いかなとも感じますが、Webエンジニアとして三菱重工のここがすごいな、と感じるポイントはありますか?

森岡:まず一番大きなポイントとしては、仰られるように、とても大きな機械があるというものがあります。家くらいの大きさの機械がすごい音を立てて、すごい速度で動いているのを見るのは純粋に気持ちが盛り上がるものがありました。これにソフトウェアを組み合わせたら、どのような価値を顧客に届けられるのだろうかとわくわくしますよね。

ベンチャーにいたときと同じような速度感

森岡:次に研修が充実しているところにも驚いています。より良いソフトウェアを開発していくためには、アジャイル、リーンスタートアップ、デザイン思考の3点を高いレベルで実践していく必要があるかと思うのですが、それらを学び、実践するための質の高い研修が高い頻度で実施されています。それらの研修で学んだ内容によって実際に目の前の業務が日々変化していまして、ベンチャーにいたときと同じような速度感でチームが変わっているのを実感します。

──大きい機械ってロマンがありますよね。実際にデジタル化をしていかなければならない現場はレガシー環境で紙文化が残ってて、みたいなことも多いのかなと思いますが、実際に現場に足を運んでみて如何でしたか?

森岡:製造業の現場だと、実際に作業しているスペースにはPCがないこともありました。作業する上で必要最小限のものしか置かないことで、安全性を高めているのだと思います。そのため、仕事の大部分でPCを使わないような人達に、ソフトウェアの力で価値を届けていくという難しさがあると感じています。ただ、それこそとても挑戦しがいのある課題だと捉えています。

足し算の考え方でソフトウェアを開発

──確かに難易度の高い課題ですね。逆にWebエンジニアから見て、三菱重工の課題とはなんでしょうか?

森岡:冒頭川口から、SaaSを組み合わせて既存業務を改善するという話と、IaaS/PaaSを組み合わせて顧客に価値あるサービスを作るという話がありました。

多くのSaaSを組み合わせて業務を改善するというのは、すでに数多くの施策が実施されており、効果も得られていると感じています。しかし、IaaSやPaaSを利用した顧客価値の創造については、今まさに取り組んでいる課題です。これら技術自体の習得や、スクラムやXPなどの文化の浸透には時間を要するものなので、腰を据えて取り組まねばならないと考えています。

現在は既に生産された機械の価値をより高めるためのソフトウェアという、足し算の考え方でソフトウェアを開発しています。しかしこれから数年後には、人と機械、ソフトウェアの3つの変数を柔軟に掛け合わせ、顧客に対して最適解を提供する必要のある市場になるかと思います。それを実施できる組織を作るというのも、解決すべき課題になると考えています。今まさしく仮説指向計画法や、デザイン思考の研修などを受けさせていただいていますが、それらを実際にビジネスで実践していく必要があると僕は理解しています。

川口:今後一緒に働くことになる人には技術力もそうなのですが、この組織を作っていくという部分に面白さを見出して頂ける方だと嬉しいですね。

多様性が良いサービスを作っていく

──最後に森岡さんとしてどういったエンジニアと働きたいと思いますか?

森岡:個人的には様々なタイプのエンジニアの方に来ていただきたいですね。技術を突き詰めたい方、ユーザー志向の強い方、開発プロセスに興味のある方など、色んな人に来ていただきたいです。その多様性が、良いサービスを作っていくために必要だと考えています。なので、幅広いエンジニアの方に応募していただけたら嬉しいです。

三菱重工自体は大きな企業ではありますが、私達が所属しているデジタルエクスペリエンスグループは小さいチームです。ソフトウェアで顧客により良い価値を届けるために、日々学び、業務の進め方も変わっていきます。そのため、大きな会社に入るというよりも、ベンチャーで働く気持ちで入っていただいた方が認識のずれが少ないかも知れません。

これからどんどん成長していく組織ですので、チームの文化も大きく変わっていくかと思います。その変化を楽しみつつも、自らも必要な変化を起こしていけるような方達と一緒に働けたら素敵だなと思っています!

──本日はお話ありがとうございました!

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フォークウェルプレス編集部

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本サイト掲載の全て記事は、フォークウェル編集部が監修しています。編集部では、企画・執筆・編集・入稿の全工程をチェックしています。

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