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2023.06.07 2024.01.22 約4分
こんにちは。Forkwell の赤川です。
2023年に入り、外資系企業のレイオフニュースが流れたり、国内屈指のRails企業であるクックパッドの人員削減ニュースなど、心を痛めるニュースが続いています。
レイオフはどんな人でも傷つくといいますし、その話題を目にした方の中には、当事者でなくとも落ち込む方がいるかもしれません。
自己肯定感が傷ついたタイミングで転職活動すると、その満たされなさが面接で伝わって評価されにくいことがあるので、辛い気持ちの方は、利害関係がない信頼できる人と話して回復することから始めてみてください。
こうした市況感の中で「エンジニアバブルとは何だったのか」という記事が話題になっていました。過去20年、加熱し続けてきたITエンジニア採用市場が、2022年10月を境に冷え込み始めていることを指摘しつつ、個人として強かに生きる方法を助言した良記事です。未読の方はぜひご覧ください。
記事を読む中で、エンジニアバブルなるものが本当にあったのか、あったとすればどのような数値に表れていたのか、崩壊したのだとしたら数値にはどんな変化が現れているかを知りたくなり、個人的に調べたことをまとめます。また、この流れがエンジニア個人のキャリアにどのように影響を及ぼすのかを私なりに考えてみました。
なお、ここでの意見は、Forkwell を代表する意見ではなく、赤川個人の意見です。私が認識する事実や解釈に懸念があれば、ぜひご指摘ください。
求人票には、500万円〜800万円のような、下限年収と上限年収というものがあります。Forkwell に掲載された求人票から、下限年収と上限年収の平均値と推移を、 時系列で見ていきます。
まず、2013年から2023年の10年間で、公開された新着求人の下限年収と上限年収の平均値の推移を見てみます。グラフをみると、毎年着実にあがってきたことがわかります。
過去10年間で180万円も底上げされていることがわかります。ジュニア層に提示される年収が、10年間で1.4倍になっている点は驚きです。エンジニア待遇の引き上げは、間違いなく起きているといえそうです。
では、直近の動きを見てみましょう。
四半期単位でより細かなトレンドをみたグラフが下記です。
▲2022年の第4四半期以降(図の白枠)から、求人レンジは横ばいに見える
上限年収の平均値は、少し下がっているようにも見えます。バブル崩壊というような、極端な下降トレンドは見て取れませんが、踊り場に出たようにも見えます。「エンジニアバブルとは何だったのか」でも、2022年10月までバブルが続いていたという指摘がありました。
参考までに求人倍率も見てみましょう。転職求人倍率レポート(データ)
2023年5月25日発表のデータでは、エンジニア(IT・通信)の求人倍率は最も高く、右肩上がりが続き、2022年9月から求人倍率が10倍を超えました。Forkwell の求人年収データと同じく、2022年の後半以降、踊り場になっているようにも見えます。ただ、毎年12月を境に落ち着く傾向が見れるので、これからの動きをより注視する必要があります。
▲doda.jp 転職求人倍率レポート(データ)より
では、仮に2022年第4四半期以降にバブルが落ち着いたとして、これは何がきっかけだったのでしょうか。元記事においては、色々なITブームの盛衰を指摘していますが、私からは、アメリカの利上げを発端とした、IT銘柄の株価下落を取り上げます。端的にいうと、アメリカでの利上げをきっかけに、ゼロ金利時代に投資が集中していたIT銘柄への資金が引き上げられ、各社の時価総額を大きく下げた結果、投資家・VCは投資先に利益を求めるようになったというものです。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
The Bridge 2022/05 スタートアップはどのように市場の乱高下に備えるべきか【ゲスト寄稿】
外資IT系企業のレイオフは、上記をきっかけに起こったと理解しています。これがいわゆる「テックバブル」です。(この因果関係については私もまだまだ未熟なため、詳しい情報をお持ちの方は、ぜひご指摘ください)
これは海外だけでの話ではなく、日本の投資市場にも影響を与えており、2021年から22年にかけて、IT系の企業は軒並み時価総額を落としています(営業利益が伸びていてもです)。
IT自社サービス企業の時価総額(億円)
企業名 | 2021年 | 2022年 | 差分 |
Zホールディングス | 41,848 | 40,163 | △1,685 |
ZOZO | 9,985 | 9,848 | △137 |
楽天グループ | 18,253 | 9,479 | △8,774 |
サイバーエージェント | 10,948 | 6,162 | △4,786 |
メルカリ | 9,310 | 3,135 | △6,175 |
ラクス | 3,867 | 3,024 | △843 |
ビジョナル | 1,986 | 2,776 | 790 |
マネーフォワード | 4,171 | 2,626 | △1,545 |
ディー・エヌ・エー | 2,638 | 2,204 | △434 |
フリー | 5,592 | 1,859 | △3,733 |
Sansan | 2,575 | 1,274 | △1,301 |
弁護士ドットコム | 1,939 | 874 | △1,065 |
※Bard に抽出させた上場企業のみをIRBANKで調査
以下のツイートも印象的でした。
スタートアップ不況とかスタートアップ冬の時代という言葉をよく聞くようになったけど(自分も言ってしまう…)、「不況」「冬」という言葉の裏には辛い時期を耐えれば良い時代が戻ってくるというニュアンスがあり、それは少し違うかもなぁ、と思う今日この頃。
— 湯浅エムレ@Globis Capital Partners (@emreyuasa) January 18, 2023
今の環境では、筋肉質な経営、ランウェイ確保、選択と集中、資本効率、黒字化の蓋然性が求められるが、それ自体は何か異常なことではなく、本来あるべき姿とも言える。過去2-3年のグロースモードからの切り替えには痛みや変化を伴うが、通常モードでの経営力を培う良い機会とも捉えられる。
— 湯浅エムレ@Globis Capital Partners (@emreyuasa) January 18, 2023
このような背景から、企業は売上の伸び率よりも営業利益を重視する傾向を強めたと理解しています。Forkwell のもとにも、メガベンチャーを中心に採用要件の引き上げや、ハイレイヤー層の限定採用への方針転換の希望が届いています。(これは Forkwell のような人材サービス企業にとっては向かい風となります)
一方で、バブル崩壊を感じない人もいるでしょう。どうやら、SIerなどの受託開発系の企業は、時価総額が影響を受けていないようです。
企業名 | 2021年 | 2022年 | 差分 |
富士通 | 31,839 | 36,187 | 4,348 |
エヌ・ティ・ティ・データ | 24,024 | 33,909 | 9,885 |
日本電気(NEC) | 17,766 | 14,031 | △3,735 |
日立製作所(※) | 48,380 | 59,630 | 11,250 |
▲国内4大ITベンダーの時価総額(億円)※日立製作所はIT以外の評価も含む
日本の労働人口、特にエンジニアの人材需要に対する供給はギャップが開く一方ですので、そういった企業では、引き続きエンジニア採用が加熱しています。こうした業界に所属する方にとっては、エンジニアバブル崩壊と言われてもピンとこないかもしれません。
仮に、下降トレンドに移っている場合、個人のキャリアに、何が起きるでしょうか。時価総額が下がった事実はあるものの、外資を除けば、求人側では下降トレンドに入ったという数的証拠はありませんので、ここから先は私の妄想です。
例えばこんなことが起こるかもしれません。
特にお伝えしたいのは「受け身でキャリアを構築できた時代が終わる」ということです。
需要過多な市況では、誰もが声をかけられ、キャリアは雇用側から勝手に提案される時代でした。しかし、採用予算が絞られる中では、企業の採用にかけられる工数が減ります。すると、向こうから勝手にキャリアを色々考えてくる機会はぐんと減ります。自分のキャリアは、自分で考えなければならなくなります。
そうはいっても、人の心はそう簡単には変わりません。待っていればキャリアがやってくる時代に慣れ親しんだ人たちは、今までの通りの行動を維持するでしょう。いち早く自分のキャリアを自分でつくるために行動できた人が、より機会を得やすい市場に変わるかもしれません。
「働くひとのためのキャリア・デザイン」という書籍の中で、「人が新しくキャリアを踏み出す時、古い生活や愛着と決別し、必ず何かを終わらせている」という研究が紹介されています。今回私たちが決別しなければならないのは「受け身でキャリアを作れた時代」かもしれません。
これは前のめりで転職活動しようという短絡的な話ではありません。
より主体的に、自分のキャリアに自分で責任を取りにいく観点が必要になります。
その一歩目として、最近自分の職歴書を更新していない方は、ぜひそこから着手してみてください。第三者に伝わる職歴書を書くことは、そう簡単なことではありません。仕事の目的や課題とそれを解決したプロセスなどを、具体的に書くには、当然、まじめに仕事に向き合う必要があります。
書き上げてみると、こうした話は別に下降トレンドでなくとも、当たり前の話でした。
この記事が、不透明な時代でキャリアに悩むエンジニアにとって、少しでもお役に立てたら幸いです。
記事への反応をいくつか紹介します(2023/06/08 9:15更新)
僕の感覚や目線と近い考察だった。
バブル崩壊ではなく適正な状態でstayした感覚。
これから待遇面が極端に下がっていくことは考えづらいかな。 https://t.co/hANvPHXQSB— 木村 修平@カミナシHR退役エンジニアの採用人事 (@kimkimniyans) June 7, 2023
実感値に近い。横ばいになったということは、転職をただ繰り返すだけで給料が上がる時代は終わったということなのかなと思う。
これまでの成果やスキル・経験が厳しく評価される時代になりつつあるということを意味するので、転職により給料が上がる人と上がらない人の二極化が激しくなりそう https://t.co/txDit5aV9i— ゆのん (@yunon_phys) June 7, 2023
Forkwell では、この市況下でキャリアに悩むエンジニアのよきパートナーとなれるよう、上級エンジニアに特化したキャリア支援サービスをはじめます。
まずは赤川自身が率先してエンジニアのみなさんとお会いいたします。
スタンスとしては、スポーツ選手のエージェントのように、エンジニアの立場で次のキャリアを提案しており、キャリアを実現するために、すでに募集されている案件をサーチするだけでなく、ニーズがありそうな企業へ交渉し、望ましい案件を作りだすことに注力いたします。
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