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キャリアとスキルアップ

GitLabに学ぶ!第1弾「世界最先端のリモート組織のつくりかた」千田 和央

GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた

書籍『GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた』は、世界最大のリモート組織であるGitLabの実践的なノウハウが紹介されています。リモート環境での高い生産性と効果的なコミュニケーションを実現する方法が詳述されており、リモートワークを行う多くの組織にとって有益な情報が満載です。GitLabの手法がすべての組織に適用可能とは限りませんが、そのアプローチは非常に参考になるものです。ぜひ、自分の組織やチームの実情に合わせて適応し、より効率的で生産的なリモートワーク環境を築くためのヒントを見つけてください。

この記事は、2023年12月26日開催 LAPRAS株式会社 HRBP 千田 和央 氏による講演『GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた』の読み解き方ーなぜリモートワークは難しいのか を再編集し記事化したものです。
GitLabとは
  • 世界67カ国以上に従業員2,000名以上
  • 自社オフィスを持たない「世界最大のオールリモートカンパニー」
  • リモートワークのための方法論やカルチャーを「The GitLab Handbook」として公開
  • 仕事に必要な知識をすべて支えるドキュメント文化が浸透

なぜ、リモートでチームパフォーマンスが低下するのか

本書におけるGitLabの問い「どうすればすべての人を活躍させることができるか」は、「なぜ、チームではパフォーマンスが低下してしまうのか?」と言い換えることもできます。チーム内での作業効率が個人作業時と比べて低下する現象をプロセス・ロスと呼びます。

リモート環境下で起こりやすい「プロセス・ロス」とは

例えば、一人で作業していた時は効率的だった人がチーム内で作業すると、他のメンバーのペースに合わせなければならず、パフォーマンスが落ちることがあります。これはプロセスミスの典型例です。さらに、意見交換時の反対意見の表明をためらったり、チーム内の人間関係の問題によりコミュニケーションが難しくなったりするのも、よく見られる現象です。

プロセス・ロスの典型例
  • チーム規模の拡大につれて個々のメンバーのパフォーマンスが低下する
  • 意見交換時の反対意見の表明をためらう
  • チームのコミュニケーションが複雑化

プロセス・ロスの原因は、チーム内の人間関係の問題・コミュニケーションの複雑さ・意思決定の遅れ・情報の非対称性・意見の衝突など複数ありますが、いずれも共通するのは、明瞭さの欠如です。

オフィス環境では、全員が同じ場所にいることで、情報の収集が容易でした。また、同僚の行動や表情から望ましい行動や感情を読み取ることができ、チームメンバー間の感情や期待を理解しやすい環境がありました。しかし、リモートワークでは、物理的な距離と非同期コミュニケーションにより、共有される前提や情報が断片化しやすくなります。また、1人で作業する時間が増えることで、孤独や不安を感じやすくなる傾向があります。これにより、チーム内での情報共有や感情の理解が難しくなり、プロセス・ロスが生じるリスクが高まります。

明瞭化を実現する方法

リモート組織での作業効率と円滑なコミュニケーションを確保するためには、 “明瞭化” が鍵となります。では GitLabでは、どのように明瞭化を実現しているのでしょうか。GitLabでは、The GitLab Handbook や、その他のドキュメントを集約し、最新かつ正確な情報を提供する一元的な情報源を作成しています。これにより、どんなメンバーも「ここにアクセスすれば、全てが集約されている」と認識でき、正確な情報を得ることが可能になります。さらに、GitLabでは、社員間の不明瞭さや不安、相違点を GitLabの価値観とバリューを通じて共有しています。メンバーが同じ価値観を共有し、理解し合うことで、リモート環境における多様な課題を乗り越えることが可能です。リモート組織を構築する際には、このような一元化されたドキュメントの集積場所と、共有された価値観の確立が重要です。本書では、これらの要素を実装する方法について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

人間の認知の “仕様” をハックするGitLab

エンジニアがシステムパフォーマンスを向上させたいと考えたときに、まずはシステムの仕様を理解するところからはじめるはずです。同様にGitLabは人間の仕様をハックしています。人間は日常的に「正しい」「正しくない」を感じていますが、こうした人間の認知は、いくつかの階層が重なり合って構成されています。その複雑さゆえに、私たちは多様な価値観を持っているのです。では、多様な価値観とは、一体どのようなことが挙げられるのでしょうか。

「正しさ」は多様である

私たちは誰もが多様で、異なる正しさを持っています。これは “日本” という社会においても同様です。ここでは、多様な正しさには、どのようなものが挙げられるのかを紹介します。

GitLabは、オフィスを持たない世界最大のリモート組織。世界67カ国にまたがる2,000人以上のメンバーが在籍する “多様性の象徴” のような環境です。しかし、たとえ日本人しかいない環境であっても、地域や背景の異なる人々による多様性が存在することを理解しましょう。どの国や組織も多様性を持っていることを理解し、それを尊重する姿勢が重要です。

1. 社会文化

GitLabは、エンジニアリングのシステムパフォーマンス向上と同じように、人間の認知と文化的多様性を理解し、適応しています。例えば、フランスでは自己表現が重視される一方で、日本では調和が重視されるなど、国家や社会の規範、文化によって正しさの基準が異なります。GitLabでは、これらの多様な文化的背景を持つ社員を統合するために、グローバルな視点からの包括的なアプローチを取っています。

2. 組織

組織やコミュニティには、独自の規範や信条が存在します。例えば、ブラック企業とOSSコミュニティでは、価値観や行動の基準が大きく異なります。「資金集めのために嘘も容認するべきか」という倫理的な問いに対する答えも、組織の文化や信条によって変わるでしょう。これは、所属する組織やコミュニティが個人の価値観や行動の選択に大きな影響を与えていることを示しています。

3. 対個人グループの関係性

相手の立場や地位、関係性によって、振る舞いが変化することが考えられます。例えば、上司に対しては本音を隠すことがある一方で、友人関係においては本音を求められることなどが挙げられます。

4. 個人

例えば、「お金と働きがいどちらが大切か」という問いを用意します。以前から「働きがいが大事」と考えている人は、そのように答え、過去に経済的な困難を経験している人は、「まずはお金が必要」と答えるでしょう。これは、個人の過去の経験や振る舞いが、現在の価値観や選択に影響を与えることを示しています。

5. 遺伝子

人間の行動や感情は、遺伝的要素に深く関係します。例えば、人との交流でエネルギーを得るか否かはドーパミン受容体D4の長さによって影響されることが知られていますし、不安を感じやすいかどうかも、セロトニントランスポーターの量に左右されます。

人との交流で疲れを感じやすい人には、オフィスワークで交流を推奨することがストレスとなる場合があります。これは、お酒を飲めない人に無理にお酒を飲ませるような状況に似ています。

逆に、オフィス環境で人との交流からエネルギーを得ていた人が、リモートワークで孤独を感じてしまう可能性もあります。これらの遺伝的要素を理解し、個人の体質や性質に合わせた対応が重要です。

人間は、無意識に多様性を受け入れることができない

私たち人間は、無意識に多様性を受け入れることができません。私たちの脳には、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が存在するためです。人間は自然に自分と同じようなものに惹かれ、異なるものに対して抵抗感を持つ傾向があります。このようなバイアスは、多様性の受け入れを妨げ、時に非効率や誤解を生む原因となります。

人は、自分の理想、願望、期待、譲れない価値観を象徴する「べき」が、その通りにならない時に怒りを感じます。また、自分の「べき」が「ふつう、当たり前、常識、当然」と思い込むことはないでしょうか。価値観が多様化する昨今、相手とは違う可能性があるのに、そう思い込み押し付け、決めつけるような言い方をしていないかを振り返りませんか。

引用元:「エンジニア向けアサーティブ・コミュニケーション:自分の思いを効果的に伝える方法」戸田 久実

バイアスは、正当化や論破に繋がる

例えば、職場において上司が部下に対して改善を促すプロセスが、しばしば論破や屈服に変わってしまうことがあります。上司は自分が正しいという信念(確証バイアス)に固執し、部下の言い分を受け入れず、自分の意見を押し付けることになります。そして、帰属バイアスによって、部下の行動や成果の解釈を歪め、自分の信念を正当化します。

その結果、部下の成長や向上よりも、自己の正当性を証明することに重点が置かれ、実際の部下の向上は二の次になってしまいます。この状況は、結局のところ、上司が権力構造を利用して自己満足を得るためのものに過ぎないことが多いです。このような行動は、グローバルな企業ではマネジメントスキルの欠如と見なされることがあります。

解決策は目的の共通化

GitLabは、組織内の無意識のバイアスを乗り越えるために、共通の目的を明確にし、客観的な指標を用いて「正しさ」を評価します。

個々の意見や信念に基づく議論ではなく、実際のユーザーのニーズや反応を重視する文化が育まれており、新しい解決策やアイデアが生まれやすい環境や多様性を尊重することに繋がっています。

リモートの難しさを乗り越えるためのTips

本書では、「GitLabのわかり合う方法」について、詳しく解説しています。その中でも、実践的で効果的なGitLab式コミュニケーションのコツを1つご紹介します。

  • 思いやりを持つ
  • たくさんの人の目につくように感謝を示す
  • 役職や肩書で物事を語らない
  • 前向きな意図を想定する
  • 謝れる方が強い
  • エゴを捨てる
  • 誰も失敗させない
  • 仕事を基準にして話す
  • 不快な考えや会話を受け入れるなど、Handbookに数多く収録

前向きな意図を想定する

これは、相手が問題解決のために最善を尽くしているという前提に立つことです。たとえ相手の意見に一度は納得できなくても、相手が努力しているという点を理解することが重要です。

さらに「スティールマン論法」を活用すると、よりこのアプローチを強化できます。これは、相手の意見を相手が納得するように要約し、それを共有する方法です。

例えば、「あなたが言っていることは、こういう背景があって、こう考えたからこの解決策を提案しているんですね」と相手の意見を肯定的に要約し、理解を示します。相手は自分の考えが正しく理解されていると感じ、より建設的な対話が可能になります。そして、最終的な「正しさ」は共通の目標や客観的な基準に基づいて判断されます。

単純なテクニックですが、これを実践することで相手との関係性は大きく変わります。マネジメント能力の向上や周囲からの信頼の獲得、さらにはキャリアアップにも繋がる可能性があります。また、誰に対しても実践できる方法です。ぜひ、日々のコミュニケーションに取り入れてみてください。

まとめ:リモートワークを機能させるためには

  • 「情報を共有する土台」と「わかりあうための仕組み」が必要
  • 人間は、多様な「正しさ」を持つ
  • バイアスが「わかりあえなさ」を引き起こす
  • 「前向きな意図を想定する」ことで建設的な態度に変えていく

ぜひ「すべての人を活躍させる」という視点で本書を読んでいただけると嬉しいです。

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GitLabに学ぶ!第2弾「GitLabで学んだ最高の働き方」

GitLab Senior Solutions Architect の佐々木さん・伊藤さんによる「GitLabの最高の働き方:特別セッション」をレポート。GitLab の日常や「The GitLab Handbook」の活用法、リモートワークを成功に導くための実践的アドバイスなど、GitLab流 リモートワークの極意を伝授します。モデレータは『GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた』著者の千田さんです。

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千田 和央
LAPRAS株式会社

HRBP

東証プライム企業から創業期スタートアップまで人事責任者を歴任。『作るもの作る人作り方から学ぶ 採用人事担当者のためのITエンジニアリングの基本がわかる本』『GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた』などの著書があり、国内外のITエンジニアに関連する組織づくり制度設計採用などの人事領域を専門としている。