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■クラウド&インフラストラクチャ
2022.05.13 2024.03.06 約5分
Forkwell が主催する技術イベント「Infra Study」。今回のテーマは「エッジ・フォグコンピューティングとこれから」です(開催日:2020年 10月23日)。本記事は登壇者の菊地さんの基調講演からエッジコンピューティングを理解するためのネットワーク構造から、エッジコンピューティングの分類や動向、概念を解説し、想定されるユースケースも紹介します。
近年、エッジコンピューティングという言葉をよく目にするようになりました。エッジコンピューティングの「エッジ」とは、どこの/何のエッジ(端)なのでしょう?実はこれは、「クラウド」に対するエッジを指しています。ではエッジコンピューティングの「コンピューティング」とは何でしょうか?エッジコンピューティングは、ネットワークの中にコンピュータを埋め込みたい、という動機からスタートしています。エッジコンピューティングの理解のためには、クラウドやネットワークの知識が少しだけ必要です。また、エッジコンピューティングはすっかりバズワード化しているため、全体像を少しだけ俯瞰的に眺めてみる必要もあります。本セッションでは、エッジコンピューティングという考え方がなぜ登場してきたか、またエッジコンピューティングで何を実現することを目指しているのか、について解説していきます。そして、それらの話を通じて、エッジコンピューティングを含めたネットワークインフラが今後どのような形になっていくのか、いくべきなのかについて語りたいと思います。フォグについてもセッション内で触れていきます。
菊地 俊介と申します。今回はエッジ・フォグコンピューティングの成り立ちと、インフラのこれからと題して発表します。
私はさくらインターネット研究所所属です。以前は富士通(株)富士通研究所で研究員をしていました。今はデータ流通や OpenFog の標準化、アニーリングのコンピューターを調べたり(様々な技術の)リスクを調べたりしています。本職はエッジ・フォグコンピューティング、分散系システムのあたりです。
今回は、主にエッジコンピューティングの成り立ちについて話します。
まずはエッジコンピューティングを理解するために、前提となる現状のネットワーク構造を紹介します。
上の図は、日本におけるインターネットやインフラのネットワーク構造を模式的に表しています。
多くの方は自宅に有線を引いていると思います。地域網やフレッツ網と呼ばれるネットワークが存在していて、ここからクラウドにあるデータセンターのサーバーに向かってアクセスするのがよくある形態です。
家でも携帯電話がメインで、有線を引いていない方もいると思いますが、当然、携帯電話のネットワークからインターネットにアクセスできます。今後はこちらが主流になる可能性もあります。
携帯電話会社と契約せず、自前でネットワークを引いているケースもあります。これは企業や学校で多くみられ、自分たちで網を持っていて、網のなかにサーバーがある形態です。ここでは便宜上、自営網と呼びます。
自営網の場合、従業員がオフィスや学校から端末をつないで、インターネットにつないでいるケースがあります。一方、オンプレでサーバーを立ち上げていて、クラウドを扱っていないユーザーもある程度います。これらが自衛網のグループを形成しています。
大きく分けて、これら3つがユーザーの使うネットワークの主要構造になっています。この構造が重要な前提部分であり、これを理解しないとエッジが何か分かりません。
この構造が出来上がったのは、 2000年代後半です。この頃はまだ LTE の網は携帯電話でしたが、iモードができてからは、携帯電話のネットワークがあり、インターネットにもつながる構造になりました。確立したのは2000年代です。
2010年後半頃までは、そのままでしたが、IoT が登場して、ネットワークにつないで何かさせようとすると不都合が出てきました。その最たる例が「遅い」ことです。自動車を例にします。自動車は1m進む間に35 msec しか、かかりません。
これに間に合うように処理をさせたい場合、サーバーに問い合わせをして、答えをもらうまでを10 msec くらいに収める必要があります。これは人に対するサービスの要求の約10倍の速さです。
日本は網が優秀なので、沖縄から石狩に送ったとしても、行って帰って100 msec もかかりませんが、10 msec は厳しいです。
サーバーが遠いのであれば、手前に持ってくるしかないので、クラウド側にあったサーバーをアクセス網のなか、または、そばに持ってこようというのが、エッジコンピューティングの基本的な考え方です。
ここで重要なのは、それぞれの網へ持ってきていることです。自分のそばであれば、どこでもいいわけではありません。エッジコンピューティングはクライアントに対するサーバーなので、どこかで線につながっている必要があります。
アクセス網の観点で、線につなぐ先はキャリアネットワーク、携帯ネットワーク、自衛網の3つしかないので、大分類としてエッジコンピューティングは3つにわけられます。
各アクセス網のそばにエッジサーバーを置いたときに、誰がサーバーを用意して、ネットワークの設定を作り、ビジネスするのかという話になります。
私は大きく3グループにわけられると思います。
クラウドが、データセンターからエッジ側に伸びていくアプローチがあります。便宜上、クラウド延伸型と呼びます。
携帯キャリアが標準化をして、携帯電話網のなかに、エッジサーバーを置いて、エッジコンピューティングを進めるやり方があります。これを MEC(Multi-Access Edge Computing)型と呼びます。
自衛網のサーバーをまとめて、他とつながるようにしていきたい。それをできれば標準にして他の人も同じように使えるようにしていきたいと考える IIC(Industrial Internet Consortium)型と呼ばれる、IoT の標準化をやりたいと思っている人たちもいます。工場や産業機器をつながるようにして、それがエッジコンピューティングを構成して、インターネットにもつないで便利にしていきたいと考えるグループがあります。
クラウド延伸型、MEC型、IIC型の3つの動向を見ていけば、エッジコンピューティングの動きが理解できると思います。
クラウド事業者の業界最大手は AWS です。
AWS はキャリアと手を組み、 積極的にエッジコンピューティングを進めています。2019年 12月のプレスリリースでは KDDI株式会社と手を組むことが発表されました。また同時期の2019年 12月にはベライゾンと手を組むと発表されています。
2020年 8月には、2020年中にベイエリアを含む、10ヵ国でサービス開始すると発表されました。
Microsoft の Azure は2020年 5月にエッジ領域に進出するというプレスが出ました。
Azure では3つのエッジ形態が予想されます。1つ目はキャリアと一緒にやるパターン。2つ目のプライベートは自衛網のところに置くパターン。3つ目は自前のデータセンターを作るパターンです。
Google は、2020年 3月に Anthos for Telecom を発表しました。 Googleは AT&T と組んで進出するといっていて、クラウドベンダーの主要各社は携帯キャリアと手を組んで、実際に作っていく動きが盛んです。
AWSには、Outposts というサービスがあります。これは AWS のラックをオンプレに置くというものです。これもエッジコンピューティングのソリューションです。
オンプレのサイトに AWS のラックを置くことができ、それがつながった状態になって AWS を使ってるかのように、エッジコンピューティングを使えるのが、Outposts です。
現時点(2020年 10月 23日 登壇時点)では実際にサービスが入ったケースを聞いたことはないですが、非常に注目されているので、当社としては脅威を感じる事例です。
IIC におけるエッジコンピューティングの動きはあまりありません。IIC と OpenFog が2年前に合併しましたが、その頃の資料とほとんど変わっていません。
しかし、2020年 10月20日 に IIC から新しいテクニカルレポートが出ました。産業分野の機械があり、EDGE NODE が複数あり、しかもレイヤーかつ互いにつながって、クラウドにもつながるアーキテクチャで進めていこうとしています。そのときの EDGE NODE の構成は図のようなモジュールブロックになっています。
さらに TRUSTED な基盤があって、上にアプリケーションが動く基盤があり、さらにこれが互いにつながっていくアーキテクチャの構図です。考え方があらためて示されたので、少しずつ進んではいますが、クラウドベンダーの動きに比べると圧倒的に動きが遅い印象です。
次にエッジコンピューティングの使い方を見ていきます。
エッジコンピューティングはありとあらゆるものがエッジコンピューティングになっています。
エンドデバイスに近いところに、DataCenter を置いていこうというのが、Micro-DataCenterタイプです。
こちらは自動車を収容するタイプです。車自体がエッジノードで重い処理を担当します。
エッジAIタイプは、エンドデバイス自体が AI 的な処理をおこなって、その結果をクラウドに送るシステムです。これも広義の意味ではエッジコンピューティングといえます。
現場のデバイスを gateway、Raspberry Pi などで収容して、データを束ねたり、暗号化してクラウドに送るセンサ収容、スモールエッジタイプもあります。
しかし、境界は曖昧です。便宜上、4通りにわけましたが、きっちりわけられるものではありません。どれだけの処理をどこで動かすかは、システムの要求や要件に応じて変わるので、エッジコンピューティングの境界は曖昧ですが、あえて分類すると、この4つになると思います。
議論対象としているものがどのタイプなのか、どういうターゲットで作ろうとしてるのかを整理しないと、話が噛み合わない可能性があるので、そこに意識を向ける必要があります。
想定のユースケースを紹介します。エッジコンピューティングの特徴は、低遅延、現場内から危険なデータを外に出さなくていい、通信料が減らせるなどがあげられます。
エッジコンピューティングが推奨される例に、ゲームがあります。会場内でのゲームプレイ内容を統合するにはサーバーが必要です。
現状はクラウドにありますが、サーバーを手前へ持ってくると、もっと早く動かせますし、いろんなことができると予想されています。
ゲームには、ストリーミングのタイプもあります。Stadia や GeForce Now、 PlayStation Now など、いろいろあります。
このうち Stadia はエッジではないかといわれていますが、はっきりしたことはわかりません。GeForce Now は、エッジコンピューティングっぽい形態です。
GeForce Now は、 au あるいは softbank の網のすぐ出口のそばにオンプレとして、GPUサーバーが入ったデータセンターを立てていることが予想されます。そこに向かって、上記、図の緑矢印のようにアクセスしていくと、クラウドよりも早いです。
上の図はソフトバンクが発表している資料です。端末から携帯電話網を抜けたすぐのところに、コンテンツサーバーが置いてあり、ここに GPU がのっているサーバーが立ってる構造なので、すでに実現しているエッジの形態です。
エッジといえば車ですが、これは自立運転ではなく、車が自分の周りと連携してぶつからないように、あるいは協調して走るための形態です。
Cellular V2X という名前で検討されていますが、V2X は X の部分が V2V や V2VI 、V2N や V2P などがあります。 V2I や V2P が車のそばで、サーバーを仲立ちにして、周りの状況を知る形です。
大量にインフラを打つ必要があるので、独特なエッジコンピューティングの形態です。しかし現時点(2020年 10月 23日 登壇時点)では実用化されておらず、検討中の段階です。
その他にセンサーで画像を撮って、それを解析するみたいな、こちらは前のページで紹介した車のエッジコンピューティングとは少し違います。
車に非常に低スペックなデバイスをのせて、カメラを撮り、そのローデータをエッジ側に送って、例えばナンバープレートの認識をし、その結果を車に返す形です。センサデータをエッジで収容するタイプのサービスです。中国では 5G を使って、こういった実証実験をやっていると聞きました。
エッジというと、エッジAI を指しているケースのほうが多いのではないかと思うくらい流行っています。小型のデバイスだったり、 NVIDIA の Jetson-Nano みたいなもので画像を撮って、その場で解析します。
これはエッジが網のなかにあるエッジコンピューティングではありません。エンド側のデバイスがエッジなので、混乱を招きますが、非常に盛んになっています。
Forkwellは「成長し続けるエンジニアを支援する」をコンセプトに勉強会を開催しています。Infra Study Meetupは、インフラ技術の「これまで」と「これから」を網羅的に学ぶイベントです。インフラ技術の各分野に精通した講師を招いた講演や著名エンジニアによる発表を実施しています。
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