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■リーダーシップとチームマネジメント
2022.08.08 2024.06.28 約3分
株式会社ZENTech 取締役の石井 遼介と申します。今回は心理的安全性の専門家として話をお聴き頂ければと思います。今でこそ組織・人事が専門領域ですが、元々は精密機械工学領域でソフトウェア系のエンジニアをしていました。さて「心理的安全性」は私たちの社会にとっても大事なテーマです。書籍『心理的安全性のつくりかた』や、さまざまなメディアを通してこの「心理的安全性」をもっと世に広められるように日々、活動しています。
甲斐あって「心理的安全性」という言葉は広がってきましたが、まだまだ誤解もある状態だと感じています。そこで本日は、その心理的安全性への誤解を解くとともに、「いい組織、いいチームの作り方」も合わせてご紹介します。
「心理的安全性」を細部まで正確に理解しようとするよりも、まずはざっくりイメージを掴んでみましょう。そのためにも…。
「そもそも今って、どんな時代なんだろうか?」こんなテーマからスタートしてみましょう。VUCAと呼ばれることもありますが、現代は本当に変化の激しい時代です。「正解がない時代」で、正解らしきものも、素早く移り変わってしまう、まさしくそんな時代でしょう。
* VUCAとは・・・Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)のイニシャルを取って時代を表したもの
正解のない時代に必要なものは何でしょうか。それは「チームが実践から学習する」ということです。正解があれば、上司やベテランが知っているはずなので、その人たちに聞く、もしくは正解が書かれたマニュアルで学習すれば十分ですよね。ただ、それだけで解決できないのが、現代の我々のビジネスやエンジニアリング領域ですよね。では、どうすればいいか?
正解が分からない中で、仮説を立てる → 実際にやってみる → 検証 → 軌道修正する
このような形で実際にやってみることが大切です。そして、このサイクルをチームとして上手に回すことを促進するものが「心理的安全性」です。これが、この混迷の時代において「心理的安全性」が注目を集める理由だと考えています。
心理的安全性は、ひと言でいえば、地位や経験に関わらず、誰もが率直な意見、素朴な疑問を言うことができる組織・チームだと思ってください。「そりゃそうだな」なんて思う方も多いでしょう。実際、チームでそのような心理的安全性があることは、当たり前に大切なことですよね。
「心理的安全性」には、様々なメリットがあります。これは重要な複数の論文でわかっていることを1枚にまとめた図です。
つまり、組織やチームの学習と成長、未来の高いパフォーマンスの先行指標と捉えるといいでしょう。
「心理的安全性」の第一人者、現在はハーバードで教授を務める、Edmondson先生の初期の研究で面白いものをご紹介します。
ある医療チームの研究では、治療成績の良い医療チームの方がミスの数が多かったんです。普通に考えれば、治療成績の良い医療チームってミスが少ないんじゃないの? 逆では? と思いますよね。もちろん、ミスが多いチームが治療成績が良いチームだ!ということではありません。私たちが「ミスの数」と思っていたのは、ミスそのものの数ではなく、ミスの【報告数】の多さだったんです。つまり、やらかしたときにミスを報告できる「心理的安全性」の高い組織やチームであることが、良い医療チームの秘訣だったんです。
やらかしたのに報告できない = 事態が刻一刻と悪化していくわけです。周りはミスを知りませんから、やらかしてない前提で治療を進めていきます。我々はつい「いや、そんな大事なこと、早く言えよ」と思ってしまうんですが、患者さんの命がかかっていても、人は「言えないとき」がある。これは重要な知見だと思います。
少し前にこの話を Twitter に投稿したところ、105万インプレッション、1.36万いいねがつきました。
心理的安全性の高いチームは、単なる「仲良し組織」ではありません。反対に、なんでも言い合うことでお互い萎縮したり、仲が悪くなることは問題です。つまり心理的安全は、単純に仲の良し悪しで判断することはできません。
仲が悪すぎて、お互い足を引っ張り合うようなチームは当然、チームパフォーマンスが出せませんし、仲が良すぎて成果より人間関係を重視してしまう場合もパフォーマンスが出せません。重要なのは成果やパフォーマンスを向上させるために、お互い萎縮せず意見交換できることです。
心理的安全性の反対を考えてみましょう。簡潔にまとめると 心理的 “非” 安全とは「罰と不安が蔓延する」職場・チーム です。罰や不安といっても鞭打ち100発!みたいな話ではなく、小さな罰や不安です。しかしそれが積み重なると「この組織・チームで余計なことをしない方がいい」「余計なこと言わない方がいい」なんて人が増えるわけです。これは、心理的安全性が低い状態です。
例えば
こういったことが続けば「この組織・チームで余計なことをするのはやめておこう」「ここが課題だと思うけど、私がやらなくてもいいかも。」という思考になります。Twitterでも「ミスは報告したくないもんな」とコメントをもらいました。そうなんです。罰と不安は行動を減らしてしまうんです。「心理的安全性」を作るのも壊すのも、ひとつひとつの行動の積み重ねです。「銀の弾丸」があるわけではないのです。
罰や不安によるマネジメントが機能しにくいことは、ハーバード大学のB.F.Skinner教授によって80年以上前に結論が出ています。
不機嫌な上司や先輩に、相談しようと思いますか?
こういった状況で「よし、相談しよう!・挑戦しよう!」と感じる人は少ないでしょう。このように「罰」に行動を増やす機能はなく、逆に行動を減らす効果があります。罰や不安が多い心理的非安全な職場では中長期で見ると行動量が減り、必要な情報を得ることが出来ず、成果やパフォーマンスを出すことが難しくなります。
心理的安全なチームを作るための大方針はお互いに罰・不安を与え合うのを避けることになります。更にここからもう1歩踏み込んだ心理的安全なチーム作りのためのフォーカスポイントが4つあります。
価値を生み出す、良いシステムを作る、より良いユーザー体験を作るなど、色々な観点をテーブルの上に出し合えることを指しています。雑談だけなく、言いにくいような不都合な真実も含めて話しやすいか? がポイントです。
「こんなこと聞いたら馬鹿にされる」と考え過ぎてしまい、本当に必要な助けを求められなくなることが連鎖反応のように続くと、チームとして機能しなくなってきます。
成功か失敗か結果がわかる前に、アクションしたことを認め合える状況を作りましょう。「新しいことを試してくれてありがとう!ナイストライ!」というイメージです。みんな「チャレンジが大事だ!挑戦しろ!」と言いますが、大成功して初めて褒められ、失敗すると責任を負わされます。それでは挑戦は増えません。挑戦したことって、普通はすぐにうまくいかないですよね。なぜかというと、うまくいくかどうかわからないことを試してみるっていうのが挑戦の定義なので。そこに対して「よし、失敗したな。責任を取れ」をやってしまうと、挑戦者の心を折るだけではなく周りも「うちのチームは挑戦すると酷い目に遭うんだ」と学んでしまいます。
新しく来た方に対し、的外れを歓迎してください。的外れって、早くわかった方がかえってチームが同じ方向を向くために有用で、成果に繋がるんです。
意見を言っても「安全」だからこそ、健全に衝突ができるわけです。健全に衝突ができるからこそ人やチームが育ち、それがゆくゆく業績やイノベーションに繋がります。