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■リーダーシップとチームマネジメント
2022.08.08 2024.03.12 約3分
石井 遼介(ZENTech取締役)
東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。 2020年9月に上梓した著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は24刷・13万部を超え、読者が選ぶビジネス書グランプリ「マネジメント部門賞」、HRアワード2021 書籍部門 「優秀賞」を受賞。
心理的安全性の実現には「リーダーシップ」が重要です。
「心理的安全性の高い組織になりますように!」と祈っていても物事は変わりません。誰かがリーダーシップを発揮していく必要があります。現在のチームの心理的安全性は “チームの歴史” を背負った結果・状態です。 過去のメンバーの行動、事件、それに対する対応などの積み重ねで成り立っています。もし今朝、大きなトラブルが発生していたなら、昨日までのチームの状態と雰囲気が違いませんか?そのため「心理的安全性はこれをやったら大丈夫」という正解らしきものって、意外と役に立たないことが多いんです。大切なのは、組織やチームに応じて柔軟に対応できる心のしなやかさ、心理的柔軟性です。
この章では、心理的柔軟性なリーダーシップを育む方法をご紹介します。
リーダーとリーダーシップを対比させて考えてみましょう。
今の自分のポジションがどうであれ、他の人に良い影響を及すリーダーシップを磨くことは大切です。特に自分が所属する組織やチームを良くするために上司や周りを巻き込むって、すごく重要ですよね。定義上、自分より上司の方がパワーがありますから、自分よりパワーがある上司までを巻き込む力、リーダーシップが大事になってくるわけですね。
「心理的柔軟性」という言葉、聞き慣れない方も多いでしょう。これは平たく言うと、正論を振りかざすのではなく「役に立つこと」をしましょうというコンセプトです。なぜこの心理的柔軟性が大切かというと、特に組織やチームを動かそうというとき、単に正論を振りかざしても、あまり役に立たないことが多いからです。
あなたが新人の教育係だとします。新人に「君の報告は本当にわかりにくい。もっとわかりやすく言って。」と指示します。それに対し新人が「失礼いたしました。では、論点3つに整理させていただきます。1つ目は〜」という要領で報告を始めたら、逆にびっくりしませんか?このように「お前、わかりにくいぞ!」と詰め寄っても、新人の報告のクオリティが上がる訳ではないんです。それよりも、適切な教育や投資、トレーニングを実施する方が役に立つわけですよね。
あなたが営業だとします。部下に「お前!今月の目標未達じゃないか。どうすんだ!」と詰め寄ります。そこで部下が「画期的なアイディアを思いつきました!これでいけます!」と回答するでしょうか?恐らく「すみません」「次回は頑張ります」とか、「今月だめだった理由は〜」という回答になるでしょう。成果を上げるための会話ではなくて自分の身を守るための時間になるはずです。
実は「あいつにはやる気がない」とか「もっと危機感を持て」とか、心の中のことは、あまり考えても役に立たないことが多いのです。ついつい気になってしまうのは分かりますが、心の中のことよりも「行動そのもの」にフォーカスをした方が役に立ちます。特にビジネスでよくある「役に立ちにくい、心の中のこと」をお伝えします。
例:危機感 / 意識改革 / 努力 / まじめにやれ / 頑張れ / 真剣にやれ / 前向き / モチベ / 配慮 / 丁寧に / 心を込めて / 自立 / 改善 |
これらは共通理解が無いと、とてもブレやすい言葉です。
コロナ以降、頻繁に使用される「危機感」という言葉を例にあげてみます。リーダーが部下に「危機感を持て!」と発言したとします。それに対し部下が「うちはヤバイかも……」と危機感を持ち、転職や副業を検討しはじめたらどうでしょうか?むしろ危機感がなくても、競合調査や新しいビジネスプランを考えるなど本当に役立つ行動を取ってもらえれば問題ないですよね。正直、心の中に危機感があろうがなかろうが、本来どっちでもいいはずなんです。
もし、このような心の中のキーワードをやって欲しいなと思ったら、「行動」に変換してみてください。コミュニケーションがスムーズにいくはずです。
例:危機感 / 意識改革 / 努力 / まじめにやれ / 頑張れ / 真剣にやれ / 前向き / モチベ / 配慮 / 丁寧に / 心を込めて / 自立 / 改善 |
ここまで読んで「心理的安全性は大事!まずは話しやすくしよう!」と、思ったあなたの次のアクションを考えてみましょう。俺は普段から部下に「何でも言ってね」と伝えているから大丈夫だよ と仰る部長の方、とても多いです。実際にメンバーに話を聞くと「いや〜実際に言うと『それはないだろ!』『もっと考えろ!』って、バサっと斬られて……めちゃくちゃ怖いんですよ」なんていうのは、よくある話です。何かを促すときは「やってよかった」までがあって、初めて行動は持続します。
友人の会社の事例です。彼の会社は「うちは、絶対に怒らないシステム部門です」と宣言しているそうです。メンバーから「実はちょっとシステムが……」という相談があった時には「まず、教えてくれてありがとうございます。どうしたんですか?」と、対応しているそうです。そうすると、相談した側は「相談して良かった!」と感じますよね。このように相談してハッピーだった、だから次回も何かがあったら、すぐに相談しよう、という流れがないと、状況を悪化させた後にやっと報告が来て、余計な仕事が増えて……の悪循環が生まれます。
組織が陥りやすい「心理的 “非” 柔軟性」とは 「相手の問題だ」という思考を真に受けやすいことです。「なぜ、あの部署は協力してくれないの?」という思考を「私たちは協力したくなる働きかけができているかな?」という問いに変換してみましょう。私たちは自分のチームや組織であるにも関わらず、つい自分だけを問題の外側に置きがちです。第1部では「心理的安全性の4つの因子」をご紹介しました。そこに対して正論ではなく、ぜひ自分自身を問題の中に入れてみてください。「役に立つことをするために、何ができるだろう?」そんな問いを持ちながら明日からの仕事を頑張っていきましょう。
ZENTechでは、心理的柔軟性の無料トレーニングを、毎週火曜日 朝8:10から実施しています。もし興味があれば、LINEで案内が届きますので、よかったら登録してみてください。