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■CTO名鑑
2023.03.27 2024.05.01 約5分
自分のキャリアロールモデルを探すITエンジニアのためのCTO名鑑シリーズ。今回は、ピクスタ株式会社 後藤 優一氏を特集します。
— 第3回目は、ピクスタ株式会社 CTO 後藤 優一 さんをお招きしました。実はこの「CTO名鑑」を企画した当初から後藤さんにはお声かけする予定でした。ファンです。よろしくお願いいたします。
後藤:(笑)ありがとうございます。よろしくお願いします。
— まずはピクスタ株式会社について簡単に教えてください。
後藤: 「才能をつなぎ、世界をポジティブにする」を理念に、クリエイティブな才能を持った方と、それを必要とされてる方を繋ぐプラットフォームを展開しています。会社名と同じ PIXTA というサービスは、Adobe Stock などに代表されるストックフォトサービス。またフォトグラファーと撮影希望の方をつなげるサービスとして、個人向けに fotowa(フォトワ) 、法人向けにPIXTAオンデマンドも展開しています。
— 後藤さんは1990年生まれですよね。2020年1月の CTO 就任当時は、なんと30歳!
後藤:そうですね、ただ就任前からちょいちょいジャブみたいな活動があって……。
— ジャブ?
後藤:はい、実態としては2019年頃から CTO をやってたようなところがありまして。例えば、AWS主催の CTO Night & Day も CTO になる前から参加していたり。
— CTO(予定)としての活動をしていたと。
後藤:そうなんですよ。もともとプラットフォームチーム(技術推進室)の室長もやっていたり。ちなみにそのチームでは、新事業の立ち上げなどをテックリード的にサポートしていました。
— CTO は、前任からの引き継ぎなのでしょうか。
後藤:いえ、もともとピクスタには CTO がいなかったので、新設のポジションになります。僕が直接、聞いたわけではないのですが、やっぱり会社の規模感に応じて新設されたのかなとは思います。
— CTO就任前から着実に実力を身に付けていったことが評価につながったのですね。
— 後藤さんといえば、t_wada(和田 卓人)との関係性も気になるところです。お互いの書籍をレビューするなど深い関係性を構築されていますね。
後藤:和田さんとは出会って10年ぐらい経ちますが、最初の印象から全く変わらないんです。打ち出の小槌みたいな方。どんなテーマの質問でも、聞いたら何かしらの回答が返ってくるんですよ。最初にペアプロして以来、常にアドバイスをもらっています。
時系列
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— Geekly Media【第1回・前編】 エンジニア和田卓人の今を形作る技術 では、後藤さんのことを愛弟子だと語っています。
後藤:こうして時系列でまとめてみると確かに交流は深いんですが、正直 “愛弟子感” はなかったので「直接言ってよ〜」って感じ(笑)でも面と向かって言われると恥ずかしいかな。インタビューを見て素直に嬉しかったです。
— ポッドキャストも拝聴しましたが、本当に息がぴったりですね。
後藤:これは完全に余談ですが、和田さんがコンサル業務で月に1回ほど来社される際、僕は必ず質問を考えて、和田さんに聞きに行っていたんです。僕って結構声が通る方なので、そのやりとりが社内ポッドキャスト(物理)みたいになってたんですね。他のエンジニアの方が「ちょっと面白そうだから聞いていいですか」って席周辺に集まってくるみたいな下地があったんですよ。それをネットに公開してるだけ(笑)
— 和田さんも “幸せな形” と仰ってました。良い関係性ですね。
— Perfect RoR 執筆や Rails DM での登壇内容を聞くと、改めて後藤さんの技術力の高さを実感します。経営とソフトウェアエンジニアリングの接続のエントリは、良い意味でギャップがありました。この辺りの後藤さん自身の成長や変遷を伺いたいです。
後藤:僕のポジションの変化を時系列にしてみました。
2013/04: アルバイトとして入社。いわゆるWebアプリケーションエンジニアとして働く
2015/04: 正社員化(新卒入社)。職務領域がDevOpsに寄り始める 2017/01: リードエンジニアに就任。ピープルマネジメントを始める 2020/01: 開発部長兼CTOに就任。Accelerate信者になったのはこの頃 2022/01: 開発部長を移譲し、タイトルがCTOのみになる。コーポレートファイナンスを理解したのはこの頃 |
— なるほど。後藤さんが *Accelerate信者を自称するきっかけは?
後藤: 和田さんにおすすめされてから、しばらくは積読していて(笑)ようやく 2019年6月頃に読み始めたことがきっかけですね。
ずっと読んでた本が終わりそうだったので、そろそろ重い腰を上げてAccelerate(LeanとDevOpsの科学)を読むか〜と思って前から流し読みしていたら、Dan North氏が「技術、組織、ビジネスの交差点で仕事をしている私には天の恵みのような本」という趣旨のコメントをしていてちょっとやる気が上がった。
— yasaichi (@_yasaichi) June 19, 2019
後藤:Accelerate って、こういうことを実行すれば企業の業績が上がりますよというのを、アンケート結果から因果関係を示しているんです。実は基礎となる内容を学部時代に所属していた研究室で学んでいまして、そういう意味では自分の中ではあまりギャップがなかったです。
— 研究室で学んだ内容とは?
後藤:例えば “観光地” を研究するとしますよね。まず質問表を作って因子分析をするんです。そうして、この因子がこのブランド形成に役に立っている、みたいな因果関係を示していくわけです。だから Accelerate を読んだときに「これ全く同じじゃん!ソフトウェアの世界でもやっていたんだ!」「これはめちゃくちゃ信頼できるぞ〜!」と感動して、もうそこから信者(笑)
— Four Keys や最新の State of DevOps Report なども追われてるんですか?
後藤:それが実は追えてないんです。先日ポッドキャスト収録時にこのことに気づいて、とりあえず一番最近の2022年のものを読みました。久々のキャッチアップ(笑)
— 忙しくなると難しくなるキャッチアップをどう実現しているのでしょう?
後藤:これは完全に和田さん譲りなのですが、人を追うようにしてます。技術自体を作ってる方もしくは技術を頑張って追いかけている方ですね。
*LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する
— 後藤さんのバックグラウンドや人となりを理解できたところで、CTO就任から3年ほど経過した現在の取り組みについて教えてください。
後藤:主に経営とソフトウェアエンジニアリングの接続に取り組んできました。具体的にはこのあたりです。
— 仕事の進め方で意識している点は?
後藤:やっぱり僕は 2019年の「Ruby on Railsの正体と向き合い方」で分かるように技術者あがりなんです。だから「良い技術で開発すれば、絶対ビジネスはうまくいく」っていう考えをどこかで持っていたんですね。今はなるべくその思考を取っ払って考える努力をしています。例えば、何か問題が起きたときの本当の原因は、心理的安全性から来るものかも知れない。でもやっぱり技術者だから、自分の知る手段に当てはめたくなってしまうんです。
— 私も「Ruby on Railsの正体と向き合い方」を拝見しましたが、やっぱり後藤さんの強みは、圧倒的な技術力。だからこそ、自分の知るソリューションに当てはめて解決したくなる気持ちは納得がいきます。上記のような考えに至った背景は?
後藤:*mecelo立ち上げ時、担当者と「このデータベース設計、イミュータブルデータモデルだから完璧やろ!」と盛り上がっていたことがあったんです。だけど結局は、サービスクローズになっている。実はこんなことを何回か経験し「技術力だけではうまくいかないんだ」と強く意識するようになりました。
*芸術家が月額制で支援を受けられる「mecelo(メセロ)」。2020年12月にサービス終了
— 「技術者だから良い技術選択、良い実装ができればいいじゃん」というエンジニアも多いなか、より上流の目線を持てるようになったきっかけはあるのでしょうか?
後藤:実は、技術そのものにはそこまで執着が無いのかも知れないです。どちらかといえば、問題解決の方に執着がある。それは僕が大学院まで出てアカデミアの世界に半分足を突っ込んでたからだと思うんですよね。「問題解決が今、この時代を生きている人の役目でしょ」みたいな謎の使命感を持っていて(笑)たまたま最初に始めたのがソフトウェアエンジニアだっただけで、根底の考え方は変わっていないんですよね。人のせいではなく構造のせいにするという意識を常に持つようにしています。
— 単純にカッコいい!後藤さんの視座の高さは素養の部分が大きいのですね。
— 現在、フロントエンドとバックエンドの言語統一を含むリアーキテクティング(詳細)に取り組まれているとのことですが、後藤さんの Rails を中心としたバックグラウンドを考えても大胆な意思決定だなと感じます。決定に至った背景は?
後藤:ざっくりいうと、今の企業戦略は複数事業の *コングロマリットとして企業価値を伸ばしていくという方向性です。これを実現するにはスモールに素早く開発して、ダメだったら閉じて、という形をとらないといけない。これから少人数で素早い開発が求められるなか、最初からフロントエンド・バックエンドを置き、それぞれが違う言語で開発していては遅いんです。1人当たりの開発生産性を最大化して、いっぱいチャレンジをしたい。
*コングロマリット:狭義には、多業種間にまたがる巨大企業のこと。た今日では、多業種間にまたがらない巨大企業もコングロマリットと呼ばれることも少なくない。複合企業やグループ会社などとも。
— なるほど。裏テーマもあると伺いました。
後藤:裏テーマは、教育コストの削減です。例えば、フルスタックエンジニアだと Rubyも JavaScript もやらなきゃいけない。同じ時間をかけても、人によって言語の習熟度が違います。言語統一することでエンジニアとしての上達度合いが早くなることを期待しています。あとは現実問題として今は TypeScript を学びたい方が Ruby よりも多いんですよね。母国語が Ruby である自分にとっては寂しい話ではあるのですが。
— それはあるかも知れないですね。今の若い方は Go や Rust だったり TypeScript を学ばれる方が多い気がします。
後藤:圧倒的に若い方が流れ込んでいるのは新しい言語ですよね。
— 新しいスターが生まれる言語にも注目していきたいですよね。
— 今後、CTO として目指す組織はありますか?
後藤:日々のあらゆる活動が企業価値の向上に繋がる組織です。ただ今のところ結果が出せていないんです。
— 何かギャップになっているのでしょうか?
後藤:さっき人のせいにしないって言ったばかりで気が引けるのですが、CTOになって開発側の問題を解決していった結果、ボトルネックが開発からビジネス側に移りつつあるなと思っていて。
— 後藤さんが CTO として組織的な改善を行った結果、ビジネス側の課題もより可視化・顕在化されたと。
後藤:はい。もともとサイクルタイムの長さから「全然進んでないじゃん。いつ終わるんですか」とか頻繁に言われていたし、パブリッククラウドサービス のコストも右肩上がりで大変だったんですが、まだまだ細かい課題はありつつも、大きな山は超えたかなと。今はビジネス側の「何をつくるのか、なぜつくるのか」が課題です。
— そこをクリアしようと思うと CTO だけでなく CPO(Chief Product Officer)の役割も必要になってきませんか?
後藤:そうなんですよね。「CTOなんだから、CTO の仕事だけやっておけばいいよ」という考え方もあれば「CTO 以前に執行役員なんだから、執行責任を果たすために必要に応じて CPO もやってほしい」という考えもあると思います。
— ある種の転換期ですね。
後藤:ボトルネックが解消されると別の部分がボトルネックになりますよね(笑)
— 後藤さんが目標にする CTO や、良い CTO の条件はありますか?
後藤:そうだな、昔はバイネームでいたんですけど……でも共通点を探すなら、エンジニアリングと経営をつなぐことができていて、なおかつ成果も出している方。
— なるほど。今は思い付かないのかなという雰囲気を察するに、CTO就任当初と現代で目線の変化などがあったのでしょうか。
後藤:その推察はあたっています(笑)去年、前述のCTO Night & Day に久々に参加したんですが、まだCTOに就任して3年しか経過していないのに、どちらかというと話を聞く立場から聞かれる立場に変化していたんですよね。今の僕と同じもしくはもっと上を見ている方ってどこにいるんだろう……って、ちょっと見失っちゃった感じがあります。
— CTO名鑑 vol.2 の 藤村さんは、DHHと仰ってました。
後藤:DHHか〜!それでいうと特定の人はいないけど、外資系で海外に複数の開発拠点があるような企業の CTO は、全然僕らと見ている景色が違うと思います。だから Amazon CTO の Werner Vogels さんとかになるのかな。
— そのレベルまでいくと、話を聞く機会がないですもんね。
後藤:そうなんですよ。接点がないからパッと思い付かないですよね(笑)
— これからCTOを目指す人たちは何をするべきでしょうか。
後藤:現在の自分自身の職務領域で「質の高い問題解決」を行うことでしょうか。CTO に限らず、どのポジションでもこの能力は役に立つと思います。
— 後藤さんの考える「質の高い問題解決」とは?
後藤:書籍「問題発見プロフェッショナル」で語られるような、次のプロセスからなる行為のことです。
— なるほど。CTO を目指す人へのエールはありますか?
後藤:やっぱり人が多くなってくると、技術の問題よりも人の問題にぶつかります。エンジニアってコンピュータと話すのが得意だからエンジニアになったわけじゃないですか。それなのに人や組織の問題に取り組まないといけない。人の感情って意外と重要なんです。「これ乗り気しないからやりたくない」なんていわれることも。でもそれが自然なんですよ。人の感情をないがしろにしないこと。ここは絶対に無視できないし、絶対に忘れてはいけないと思います。もう最初から問題解決の中に要素として組み込んでおくべきです。
— 「推測するな、計測せよ」で育ってきたエンジニアからすると、計測できない人の感情に向き合う大変さはあるかも知れないですね。
後藤:大変ですよね。実は僕も含めてエンジニアって、コード書いてるときは論理的に書いてるんです。でもそれ以外の部分では意外と感情的な動きをします。自分が論理的な人間だと思うのは勘違い。感情的な生き物だと思った方が良いです。辛いこともあると思いますが、一緒に頑張っていきましょう!
— 勉強になります。本日は、ありがとうございました!
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