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■CTO名鑑
2023.03.07 2024.05.01 約5分
自分のキャリアロールモデルを探すITエンジニアのためのCTO名鑑シリーズ。今回は、STORES株式会社 藤村 大介氏を特集します。
— 第2回目は、STORES 株式会社 CTO の 藤村 大介 さんをお招きしました。本日はよろしくお願いいたします。
藤村:よろしくお願いいたします。
— 簡単に経歴を教えてください。
藤村: STORES 入社前は、いろいろなスタートアップでバックエンドのシステムを作ったり、フロントエンドのアプリケーションを書いたりしていました。段々とマネジメントキャリアの仕事、今で言うEMの仕事が増えてきて、直近では株式会社マチマチを共同創業しています。STORES へは2020年に入社し、同年8月にCTOになりました。
— STORES のCTOとしては、もう3年でしょうか。濃い時間だったのでは?
藤村:実は業務委託の時代もあったので、それを含めると4年くらいになりますね。ちょっとコンテンツが盛りだくさんで……(笑)4年は一瞬だったけど、内容は濃かったですね。
— 現在の STORES になるまで、複数回の事業統合など複雑な組織再編を繰り返されていますが、裏側の技術的な再編・統合では相当、苦労されたのでは?
藤村:実はそんなに統合してないんですよ。例えば、キャッシュレス決済のシステム、ECサイトのシステム、POSレジシステムみたいに各領域ごとにシステムがバラバラなので、それを一緒にすることはなかったんです。ある種、事業や領域別にシステムが分かれているのはありがたい。一方、プロダクト的なところではID(アカウント)統合したいし、システム的にもデータ連携したいところではあるので、それはシステム間連携の仕組みをどうするか、そういった動きはあります。例えばIDは統合したり、あとはデザインの部分ではUIを揃えたりなどですね。
— 最初からある程度、マイクロサービス化していると。ちなみにチームの距離感はどうですか?ある程度まとまっているのか、割とバラバラなのか。
藤村:組織図的にはバラバラなんですが、AWSの連携などは協力してますね。交流は普通にあって、人の行き来もそこそこある感じです。
— それぞれ出身母体が異なるチームが集まっていますが、チームカルチャーの違いを感じることは?
藤村:はい、それは明確に。ただ僕らにとって財産でもあって、世の中的にいわれる多様性ってエンジニアリングにおいても重要なので歓迎しています。一つの視点や価値観から物事を解くタイプではないので、ありがたいですね。
— なるほど。一方で多様性と一体感のバランスに悩まされることはないですか?
藤村:そうですね。多様性を確保しないといけない部分もあるし、チームの一体感が必要な面もある。同じような価値観を持つことは、それはそれで重要ですね。そうでないともう本当にバラバラになっちゃいますよね。でも本当に全部が同じだと、問題の解決方法も画一的になってしまうし。大事なのはバランスですよね。僕らのミッションである「Just for Fun」という言葉に結構パワーがあって、そこがみなに共通している点なのかなと思いますね。
— プロジェクトビジョンを設定する会社はそこそこ見かけますが、STORES では、テックマニフェストを制定されてますよね。制定にはどのような背景が?
藤村:複数の会社が統合し、テクノロジー部門のメンバーが100人を超える規模になっていくなかで、我々はどういうスタイルで走るのか、何を大切にしているのか、といった共通言語や価値基準は明文化されていませんでした。「さすがにそろそろ1本にまとめないと、何が何だかわからん」は、チーム全体でも僕の中でもあったので、チームの拡大に伴って立ち上がったプロジェクトでした。
— 制定にあたって意識した点は?
藤村:プロジェクト推進では、過去との繋がりを意識しました。STORES は、僕の入社前から続く長い歴史の上で仕事をしている。そこをリスペクトしないまま、新しいものを作っても絶対にうまくいかないので、ワークショップもしっかり時間を取りました。
— 昨今、 “チーム力” を重視するCTOが多いように思います。ところが藤村さんの場合、思い切り “技術力” を押し出されています。 “チーム” の前に、まずは強い “個” が必要というエッセンスを感じます。
藤村:CTOがいるような会社って、技術そのものが事業に大きな影響を与えますよね。そしてその技術力を活かせる環境なのかもめちゃくちゃ重要。技術力が会社の成長性にも直結するなかで、技術力が低くて良いわけがないと思うんですが、最近あまりその論点がフォーカスされていない気がしています。もちろんチームだからこそ成せることもありますが、やっぱり個々の技量の集合なんですよ。だから「テクノロジーカンパニーにとって技術力はめちゃくちゃ重要」っていうシンプルで当たり前のことを言い続けてるだけなんです。
— CTOになってから今までで起きた一番のハードシングスは?
藤村:新任マネージャーあるあるかもしれませんが、就任してすぐに自分の仕事が完全に溢れてしまいました。全てを一人で処理しようとしてしまって。というのも、それまでCTOというポジションがなかったので、それが出来た途端に、色々な課題がどんどんエスカレーションされてくるんですよね。そこで代表の佐藤が「せっかくCTO/VPoEの経験ある人が複数いるんだからチームでやれば?」と言ってくれたので、そのとおりにしてみた結果うまくいった。大変ありがたいです。
— よくある稼働率100%の消防車問題ですね
藤村:そうですね、ずっと水いっぱい出してるなみたいな。でも良いチームとプロダクトに支えられていたので、全然苦ではなかったです。
— 現在あらゆる課題に取り組まれていると思いますが、この3つをピックアップしてお聞きします。まず「ひとつの STORES に向けた設計」ですが、このあたり参考にされている書籍はありますか?
藤村:データ指向アプリケーションデザイン をパラパラめくったり、あとは”The Bezos Mandate”は、代表の佐藤とよく話します。システム間連携に関しては、あれが最も簡潔かつ最もインパクトのあるソリューションだなと。
— この課題にはどれくらいの期間取り組んでるのでしょう?
藤村:STORES に入ったのは、個別のプロダクトをやるためではないので、終わりなき旅でしょうね。
— なるほど。では次の「AI領域のリサーチ」ですが、これはどのような構想をもたれてますか?
藤村:ここについては正解はわからないので、まずはひたすら素振りをしようと思っています。やっぱり異常なスピードで変化しているので、正しく備えられるように対策をするというイメージ。ポジティブにいえば、遊び倒す(笑)
— いいですね、遊び倒す。Just for Fun にも通ずるような。
藤村:Just for Fun って、ただ楽しい!というよりも、産みの苦しみを楽しむ感覚に近いかも。「AI × Just for Fun 」をどうプロダクトに結びつけるのか……苦しみながら楽しんでます。
— やっぱり藤村さんから見ても昨今の ChatGPT や AIアート なんかは大きな変化を感じる?
藤村:そうですね。僕も代表も大きな変化を感じていますね。
— 「キーパーソンの採用」ですが、ズバリ、キーパーソンとは?
藤村:用意された重要なポジションをどう埋めるか?よりも「ゲームが変わりそうな人」を、僕がどう誘えるか。
— ほう、藤村さんのなかではバイネームで想像されてそうですね。
藤村:います!
— なるほど。ちなみに藤村さんが一緒に働きたいと思う人はどんなタイプでしょう
藤村:誤解を恐れず言えば、勝手に仕事する人ですかね。「これはやるべきだ」と思ったことを許可なくやって、しかも仕上げる人。一番仕事していて楽しいし。楽(ラク)というより、刺激的ですよね。
— 藤村さんの考える良いCTO像として事前に3つのポイントを伺ってます。これらを実現させているCTO、もしくは藤村さんが尊敬するCTOって、存在しますか?
藤村:僕も5年以上、他のCTOと働いてないんでわからない。でもそうだな、DHHかな。
— 想像していた水準よりもだいぶ上!
藤村:Jeff Dean とまでは言わないですが、やっぱりDHHかな。個人的にファンでもありますし。別に、僕が後任のCTOを探すときに「Bigtableぐらい作ってないとCTOはできないでしょう」とか言うつもりはないですよ(笑)
— それは見つからない……
藤村:でもその目線じゃないとGoogleには勝てないっていうのは間違いないですよね。
— Googleの話が出ましたが、STORES もいわゆる、GoogleのようなBig Techを目指すのでしょうか??
藤村:そうですね、当然ながら一晩でGoogleはできないと思うので、僕が次の世代にパスできるとしたら、すごく高いところまで行くための発射角度を設定しておいてあげたい。永続的に仕事のクオリティも提供する価値も上がる、事業が成長し続けるための角度の設定。永続的に成長できる仕組みを作れるようになりたいです。
— いい角度に設定するためには?
藤村:それをまさに今一生懸命探してるところって感じですね。それが多分わかっていたら、もう何かやってるかもしれない。
— 継続的な探索ですね。
— どちらも経験されてきた藤村さんならではのアドバイスが聞けそうです。
藤村:やりたい方をやればいいと思うんです。決められないなら両方やってみたらいい。とはいえ、エンジニア組織のマネジメントで技術力がいらないってことはないので、どちらにせよ自力を磨くべきだと思います。優秀なスペシャリストは、マネジメントのことを理解したうえでメンバー、優秀なフォロワーとして活動している場合が多い。何をやっているか理解するために学んだことが結果的にスペシャリストとしての成果を大きくすると思います。
— 自分の適性を見分ける方法はあるのでしょうか。
藤村:そもそも僕がエンジニアを一生懸命やり始めた2010年前後は、あまりEMという言葉がなかった。最も技術力の高いスペシャリストがリーダーになる流れがあったので、マネジメント or スペシャリストの分岐がなかったんですよね。だけど仕事をしていると、なぜかマネジメント的な業務が回ってくる。それはなぜかと考えてみると、仕事のスタンスかも知れません。僕は仕事をやっつける手段がプログラミングでもマネジメントでもあまり関係ないっていうスタンスなんです。
— 藤村さんの「気付いたらそのポジションにいる」天性の素質は、幼少期から片鱗を示していたのでしょうか?
藤村:たしかに小中学生で学級委員をやってましたね。「誰もやらないならやります」って感じが多かった。生徒会もやってたかな。生徒会はいいですよ。割と治外法権なので、生徒会室でジュースを飲めたり、好きじゃない行事を裏方みたいな立場でエスケープできて便利だったっけ。でも全然クラスの中心ではなく、端っこにいる謎な人って感じでしたね(笑)
— やはり天性の素質もあると。ところで藤村さんはどのようにマネジメントを学ばれたのでしょう。最近だと吉羽さん翻訳の「エンジニアリングマネージャーの仕事」を筆頭にEMが注目されていますが、そういった知見が世に拡散される前でしたよね。
藤村:エンジニアリングマネージャーではないマネジメントの本は昔から山ほどあるので、それを片っ端から読んで、吟味して取り入れましたね。マービン・バウワーの自伝なんかはすごく読みましたよ。(マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー)
— これからCTOを目指す人たちは何をするべきでしょうか。
藤村:まずCTOはマネジメントキャリアの延長線上ではない、と思っています。CTOは経営者なので、経営のことを理解するべきです。これは僕もやっている途中で、難しさを感じているし「経営のことを理解している」って自信をもって言える人は、現役でもそんなにいないだろうと思います。でも現実に起こっていることから理解するべき。
— いまの藤村さんから見て経営まで理解できているCTOっていますか?
藤村:ビズリーチの竹内さん、freeeの横路さんですね。
— なるほど。マネジメントと経営は違うということを意識したのはいつ頃でしょう。
藤村:Quipper Limited 時代にCTOの下で働いていた時だと思います。当時はあまりよくわかってない生意気な奴だったんですけど、そこでうっすら気付きましたね。
— 最後に藤村さんが重視される “技術力” についてもう少し詳しく教えてください。ひとことに技術力といってもかなり幅が広いと思うのですが、CTOとして理解しておくべき技術力とはズバリどの程度だとお考えですか?
藤村:僕が誰かにCTOの業務をパスするとしたら、で考えてみると、自分の求める基準を言語化できそうですよね。うーん(考え中)基礎科学を重視するタイプなので、科学のことがある程度わかる人かな。コンピュータの仕事って、基礎は科学技術だと思うんですね。僕は理系ではないので細部はわからないけど、何がどうなって動いているかはわかっているつもりです。昔よく同僚と「東インド会社でCTOやれるの?」って話していて。当時、船というテクノロジーを使った会社ですが、そこの技術トップができるか。株式会社の原型、船の知識、気象、科学の応用、数えきれない知識が必要な訳です。タイムスリップしてCTOをやるなら、まず羅針盤の使い方みたいなところがいいのかな(笑)
— まさに命がけ(笑)ありがとうございました!
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