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ライフワークとメンタルヘルス

心のHPゼロなエンジニア必見!「メンタル・クエスト」 – エンジニアの処方箋 Vol.2

心のHPゼロなエンジニア必見「メンタル・クエスト解説」心療内科医 鈴木 裕介

エンジニアのメンタルリスクは一般職の3倍といわれます。「エンジニアの処方箋」シリーズでは、ITエンジニアが抱えるメンタルヘルスの問題に焦点を当て、キャリア不安や技術プレッシャーを軽減するために、医師や専門家による信頼性の高いアドバイスをお届けします。

エンジニアのメンタルリスクは3倍

オンラインでの繋がりっていうのは、オフラインと比べてコミュニケーション報酬(会うことの癒し)を、感じにくいという研究が出てきているんですよね。

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ストレス学「超入門」

ストレスとは、この2つの相互作用で成立します
  1. ストレッサー(ストレス状況)
  2. ストレス反応

あの業務が‥あの上司が…だけではダメ

しかし「あの業務が……上司が……」と、ストレッサーのことだけを考えがち。ストレス反応も同時に見ることが重要です。

ストレス反応の例
  • 心理面:イライラ・落ち込み・元気がない……
  • 行動面:飲酒・喫煙・部屋の乱れ……
  • 身体面:頭痛・胃痛・不眠……

    ストレスで、人間の身体に起きること

    オーストリアの生理学者ハンス・セリエは、出血、束縛、薬物注入……あらゆるストレス刺激をマウスに与えました。不思議なことに、どのような刺激でも、マウスには 同じ “3つの反応” が起こるのです。

    セリエは、「これって人間と同じ現象なんじゃないの?」と考えました。

    さらに研究を進めると “3つの反応” に加え、 “3つのフェーズ” があることに気が付きます。例えば、刺激を与えたとき、①最初はビクッとし、②徐々に慣れていき、③3ヶ月ぐらいでコロッと死亡するのです。仕事に置き換えるなら、①嫌な仕事や人がストレス ②徐々に慣れていく ③3ヶ月ぐらいで身体に不調が現れる と、こんな具合です。

    つまり、恐ろしいのは「ストレス反応の自覚がないこと」。むしろ「調子がいいんじゃないか?」とすら思っていて、気が付いたときには再起不能な状態である可能性もあります。

    エンジニアの場合は、ストレス反応に「タイプミス」が現れることも。

    メンタル不全で出る身体の症状(七英雄風)

    実際に企業の中で問題になる疾患
    • メンタルヘルス低下時の生産性:53%
    • 月経痛・PMS(月経前症候群):64%
    • 片頭痛:67%
    • 20-40代女性の4-5人に1人
    • 常に30%低下の状態で10日勤務 = 3日欠勤と同じ損失

      朝に頭痛を感じる 30% の人が抑うつ状態であるというヨーロッパの古い研究があります。実際に私のクリニックでも、頭痛持ちの方にストレスチェックを実施すると、半分以上は高ストレスを検知します。もちろん頭痛のほかにも肌荒れや喘息の悪化など、人によって不調の現れ方はさまざまです。

      どんな “変化 ” も、ストレス要因になる

      この「ストレス・マグニチュード」に関する論文は、世界のストレス研究で最も引用されているもののひとつです。要は、変化は全てストレスになりうる、ということなんですね。意外にも、結婚・転職・昇進など、ポジティブに見える変化でもストレス要因に。ラジカルな変化を短期間に積み重ねないことがストレス軽減のポイントです。

      • 150点以下:生活の変化が比較的少なくストレスによる健康障害の影響を受けにくい
      • 150~300点:今後 1 年間で健康を損なう確率は 50%
      • 300ポイント以上:今後 1 年間で健康を損なう確率は 80%

      デイリーハッスルズ(毒の沼地)にご用心

      心理的ストレッサーは大きく分けて3つ。自覚しやすいカタストロフィやライフイベントと異なり、デイリーハッスルズはジワジワと侵食してきます。少量のダメージでも慢性的に負い続ければ、気付いたときにはHPが瀕死状態なんてことも。誰もが頻繁に経験する些細なデイリーハッスルズの積み重ねが、心身の健康状態に最も大きく影響します。

      腰痛は「メンタル疾患」であることを自覚すべし

      腰痛には肉体的要因・精神的要因があり、職場の対人ストレスや満足度が影響することもあります。ストレスを感じると本来備わっている体内システムがうまく機能せず、より痛みに過剰反応してしまうことがあるため注意が必要です。

      • 腰痛対策に大事なのは安静やコルセットではなく「体操」
      • 前傾姿勢で溜まる「腰痛の負債」をこまめに返していく
      • 腰痛は「メンタル疾患」でもある

      5つの因子、エンジニアに多い因子は?

      同じ刺激でも、それをストレスに感じるかは個性(個人差)があります。人間の特性を5つの因子に整理し、ストレッサーや相性の違いを可視化できるFFS理論は、リクルート社やLINE社などで導入され、組織マネジメントに応用されています。

      5つの因子
      • 凝縮性(こだわりの強さ、責任感)
      • 受容性(やさしさ、面倒見の良さ)
      • 弁別性(白黒切り分ける、合理性)
      • 拡散性(枠から飛び出す力、攻め)
      • 保全性(枠を維持する力、守り)

        ミスコミュニケーションが起きやすい組み合わせ 拡散性 vs. 保全性

        「拡散性 vs. 保全性」は、組織の中で最もミスコミュニケーションが起きやすい組み合わせといわれています。

        エンジニアに立ちはだかる壁、弁別性 vs. 受容性

        エンジニアに多いとされる「弁別性」因子と、日本人に多い「受容性」因子の組み合わせも、ミスコミュニケーションが起きがちです。

        弁別性の特徴
        • 黒か白、0か1、「二律に分けていく力」
        • 無駄なく合理的に判断し進めようとする
        • 定量的で的確な指示を好む
        • リモート耐性が高い
        • 「根拠は?」「要は?」が口癖
        • 交流するに値しない(ナシ)と判断した相手には、見向きもしない
          弁別性の苦手なこと
          • 義理人情の不条理さ
          • 感情論
          • 共感重視のアナログな考え方
          • 不合理や白黒つかない状況
          • 無駄
          • リターンのないこと

            会議でも冗談や雑談を取り入れず、単刀直入に本題に入る「弁別」は、受容性の高い人からみると「怖い・冷たい」と感じることがあります。話し方を柔らかくしたり、雑談など交えることの「合理性」をインストールすることで、無駄な衝突の回避を心がけてみましょう。またストレスの仕組みや機構を理解しハックすることが得意な「弁別性」には、「認知行動療法」という心理療法と相性が非常に良いと思います。ストレスマネジメントの手法として、基本的な考え方を身に付けることがおすすめです。

            「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み【自己診断ID付き】」

            こちらは非常にわかりやすい書籍です。興味があれば、ぜひ!

            ストレスマネジメントの本質「コーピング」とは

            コーピングをひとことで例えるなら自分を回復する呪文です。ドラクエの呪文のように、多彩であるほど◯。低コスト〜高コストなものまで、多数のレパートリーを持つことがポイントです。スライムを倒すのにメラゾーマは使わなくていいし、かすり傷を治すのにベホマラーを使う必要もないですよね。ストレスもこれと同じ。いま感じているストレスに合った回復方法をいくつか持っておきましょう。

            認知的コーピング
            • 「まあいいや」と思う
            • もし◯◯さんなら、こう考えるだろうな〜と考える
            • この失敗から得たものについて考える
            行動的コーピング
            • 仲良い人に愚痴を言う
            • ヨガやマインドフルネス
            • 運動して汗を流す
            • 自然豊かなところで散歩
            • ハーゲンダッツを食べる
            • 旅行

            僕は予想外のことが起きた時にとりあえず「うひょ〜」って言うようにしています。これ、実は結構良いんです。自分なりのコーピングリストを作っておきましょう!

            ▲鈴木先生のコーピングリスト

            しんどい時こそ、タンパク質を!

            精神栄養学とは、心の病気や脳の働きに関連する栄養学的要因や食生活習慣などについて明らかにする新しい学問領域です。この数十年の間に急速に研究が進み、心の病気と関連する種々の栄養学的異常や偏った食生活習慣が明らかになり、診断や治療に有用な研究成果も蓄積されてきました。例えば、食事に関しては地中海式食事(魚介類・果物・野菜・オリーブオイル中心)や緑茶の摂取がうつのリスクを下げることが分かっています。また、心を病むと糖質依存になりがちになるのですが、糖質はセロトニンの原料にならないので注意しましょう。しんどい時こそタンパク質を忘れずに!

            QAセッション

            リモート勤務で不調を感じ取る方法は?

            今日の体調と気力(テンション)を100点満点でシェアしあう方法があります。チャットツールで「今日の体調 60・気力 70」みたいに。「調子が良くないことをシェアするのは、現場の士気が下がるのでは?」という懸念点もあるでしょうが、とくにリーダー・マネジメントクラスがあえて進んで不調を発信してくれるとお互いに “言いやすい空気 ” ができやすくなり、心理的安全性の担保につながります。

            心理的安全性についてはこちらをご覧ください

            低下したモチベーションを上げる方法

            緊迫状態から解放された瞬間、モチベーションの糸が切れることってありますよね。そんな瞬間が頻発しているならば、それは過度な努力が背景にあるのでは? また「モチベーションは、常に高くなければならない」という思いをなくすことも大切です。モチベが高くない日もあります。そんな自分を許すことが、長期戦に備えるコツかと思います。

            低気圧のときとか、なかなかエンジンがかからない時ってありますよね。そんな時は、手軽に交感神経を優位にできるようなルーティンを持っておくと良いですよ。要は「心拍が上がる系」のアクションです。僕の場合は、朝のスプラトゥーンです。運動や呼吸のリズムを早くすることだったり、レモングラスとかの覚醒系のアロマも良いですよ。

            転職活動で削られるメンタルの回復方法

            削られますよね。ただ企業とマッチしなかっただけなのに「あなたは不要だ」と言われたような気持ちになってしまう。そういった辛い経験が、トラウマ化している人も少なくないです。なかなか内定が出ないことに焦って、本命以外の面接を受けまくったりすると、ますます悪循環になってしまう。それに焦ってよくわからない企業を受けている感じって人事に結構バレるんですよ。そんな時は一度立ち止まってみることも大切です。キャリアカウンセラーなどを利用して、自分が何に喜びを感じるのか、何をやりがいとするのかをじっくり整理する時間に充ててみるのも良いでしょう。自分と向き合う時間をリッチに使ってみてください。

            適切なストレスって?

            まず、ストレス = 悪 ではないんです。ストレスって気圧に似ていて、高気圧でも低気圧でも不調になりますよね。本来の自分の力が全く発揮できないような “楽過ぎる環境” も、良くないんです。バランスが大切です。また、ネガティブな感情やトラウマをポジティブに変換できたときのパワーは馬鹿にできないので、そういったトレーニングはおすすめです(ポスト・トラウマティック・グロースといいます)。名の知れた経営者の伝記なんか読むと「トラウマだらけやないか!」と思いますよ。

            自責と成長のバランス

            「全部自分の責任」という考え方もありますが、それも極端な意見かなと思います。そんなの相手と環境によるじゃないですか。全てが自責になると、成長は早くなるかもしれないけど、他の人の責任範囲まで引き受けてつぶれてしまいやすくなる。ダメな部分をきちんと理解する “適度な自己批判” と、ここまでは達成できたな……という  “フェアな自己肯定” のバランスを取ることで、成長に繋がるのではないでしょうか。そのバランス感覚って自力で身につけるのが難しいんですが、いわゆる「いい上司」とか、そういう健全な見方をしてくれるような尊敬・信頼できる他者との対話の中で熟成されるものなのかなと思っています。

            周りの不調を察知する方法

            「大丈夫?」よりも「睡眠取れてる?」と聞いた方が、相手も不調を伝えやすいと思います。調子の悪い時って十分な睡眠を取れていないので、目の開きが少し悪いんですよね。僕が産業医として実施をおすすめするのはこのあたり。

            • 金曜日に有給取得して3連休にしてもらう
            • 仕事を持ち帰らない

            3日完全に休んだら結構良くなるんですよ。逆に3日間休んでも良くならなければ、重症かも知れません。

            メンタル不調からの社会復帰

            メンタルを壊すと、やり直しが効かないような風潮がありますが、それはイケてないですし、メンタルヘルスの問題が「自分と関係ない」というのは単に誤った認識だと思います。「あいつ弱かったよね」で済ませてしまう前に、マネジメントとして反省点がなかったのかという視点は持った方が健全だし、逆にそういう視点を持っていない人とは働きたくないですね。おっかないですから。

            そして、もしメンタル不調からの復帰が長引いているのであれば、正しい診断や治療がされていない可能性も考えてみてください。「あの職場に復帰すると危険だ」というトラウマ反応が出ていて、専門的なケアが必要なケースもあります。トラウマの視点が欠如したまま漫然と投薬治療を受けているケースが多いことが社会的な問題になっている、と指摘する先生もいます。

            あとは、企業が復帰しやすい環境を整備したり、理解あるカルチャーを作る必要もありますよね。産業医などの専門家と共同してユニークなメンタルヘルス施策を打ち出している企業もあって、とても参考になります。

            突然、不安になって泣いてしまいます

            涙が出るというのは、そこで感情が復活しているときなんですね。だから泣けるときに泣いた方がいい。人間はすごくつらいときに、その感情を麻痺させ「感じないようにして」してやりすごす、「解離」という防衛策を使うんです。こういう人はすごく多い。だから、つらいのに仕事はできちゃうんですよね。いろんな感情を固めながら何とか仕事していて、帰宅したときや帰りの電車で、ワーッて泣いてしまう。もしそれが続くようなら、ケアが必要な状態だろうと思います。

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            フォークウェルプレス編集部

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            鈴木 裕介
            秋葉原内科saveクリニック 院長

            内科医・心療内科医2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズに参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。また、研修医時代の近親者の自死をきっかけとし、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動や講演、SNSでの情報発信を積極的に行っている。