Forkwell Press | フォークウェルプレス

SHARE

目次

目次

SHARE

ライフワークとメンタルヘルス

「頑張りすぎるエンジニアへ:心の疲れをとる技術」下園 壮太

「頑張りすぎるエンジニアへ:心の疲れをとる技術」下園 壮太

エンジニアのメンタルリスクは3倍です。とくに「相談」が苦手な男性エンジニアは注意が必要。本記事は、おすすめのメンタルケアについて紹介します。

この記事は、2023年9月27日開催 メンタルレスキュー協会理事長 下園 壮太 氏による講演『頑張りすぎるあなたへ、心の疲れをとる技術』を再編集し記事化したものです。
エンジニアの処方箋シリーズとは
エンジニアのメンタルリスクは、他の職種に比べて3倍高いとされています。しかし、メンタル不調には自分自身でも気づきにくい場合が多く、気づいたとしても、周囲に相談することやクリニックへの通院は心理的な負担となります。このような背景から、専門家を招いて「エンジニアがメンタルヘルスに向き合うきっかけ」を提供するイベントを開催しています。

心の疲れは蓄積疲労が原因

身体の疲れは容易に自覚できますが、心の疲れは理解しにくいものです。過度な仕事のプレッシャーや将来に対する不安が積み重なると、心の疲れが体調不良を引き起こすことがあります。このような状態を「蓄積疲労」と呼びます。蓄積疲労とは、エネルギーが枯渇している状態。このエネルギーの補給とケア方法を理解することで、より健康で充実したエンジニアライフを送るための一歩となれば幸いです。

「蓄積疲労」3段階モデル

私たちは普段、平坦な道で転んでも、すぐに立ち上がれます。しかし疲労が蓄積している状態では、同じレベルのストレスでも、その影響と回復期間が通常の2〜3倍になることがわかっています。

1段階疲労:通常疲労

転んでもすぐに立ち上がれる状態

2段階疲労:我慢が限界に

私たちは社会生活の中で、嫌な人や嫌な仕事にも我慢しながら対処しています。この我慢にはエネルギーが必要です。疲労が蓄積していると、我慢の限界が来てしまい、イライラが爆発してしまいます。

2段階疲労の怖さは、仕事ができてしまうこと

頑張れば1段階までジャンプできてしまうため、本人も周囲も体調不良や心の疲れを把握できていないことがあります。この状態で仕事を続けてしまうと、心がポッキリと折れてしまうこともあるので、大変注意が必要です。

2段階疲労:職場で起こること

  • 睡眠、食事、体調の変化、ため息、愚痴、弱音の増加
  • 積極性低下
  • 小さなミス、残業増える
  • 不公平感、警戒心、イライラの増加 → トラブルメーカーに
  • 気分の波大
  • 無理なハイテンション
  • 出勤の遅れや所在不明
  • 他者の目に敏感になり、人を避ける
  • 援助・助言を受け付けない
  • 自責の念、過剰に謝る、過剰に自分を責める
  • 自信が低下し退職を考える
  • ストレス解消法(酒、たばこ等)の増減
  • 悩みの増加や悪化

3段階疲労:鬱症状が現れる

いわゆる「鬱状態」になることもあります。自責の念が強くなり、不安や無力感が増し、極度の疲労感や負担感を感じます。このような状態が続くと、仕事に対する恐怖や苦手意識がトラウマのように記憶されてしまう可能性があります。

3段階疲労の回復には最低でも半年

3段階疲労まで進み、うつ状態になると、仕事へ復帰するまでに最低でも半年はかかります。自分自身のキャリアのためにも、心が折れないよう対策が必要です。

落ち込み期 3 – 6ヶ月
底期 1 – 2ヶ月
回復期 1 – 3ヶ月
リハビリ期 1年

「死にたい」に、制御が効かない

元気なときには無意味だと理解できる「死にたい」という感情に制御が効かなくなります。風邪やインフルエンザと同じで「咳をしたら周りに迷惑だよな」と頭で理解していても、それで病気が回復するわけではありません。論理では変えられないのが “症状”です。では、どうすれば良いのでしょうか。それは疲労から抜け出すことです。

要注意:仕事が楽しい、そんなに大変じゃない

「仕事は楽しい」「そんなに大変な仕事じゃない」と考えるエンジニアもいるでしょう。しかし、楽しくても疲労は蓄積されます。しっかりと睡眠をとっていても、たまの徹夜やクレーム対応で疲労が「借金」として蓄積されることがあります。この「疲労の借金」は、すぐに返済される場合もあれば、蓄積される場合もあります。この「借金」が一定のレベルを超えると、心の健康に影響を与えます。

仕事が原因ではない可能性も

実際にハードワークのエンジニアに話を聞いてみると、その背後には仕事以外の要因が存在することも多いです。家庭やパートナーとの関係、そして特に情報過多の現代社会が、感情の消耗という形で疲労を引き起こしています。感情の消耗はエネルギーを大量に使用します。この点が実は最も大きな疲労の原因である可能性があります。特にSNSや動画コンテンツは、感情を高ぶらせる要素が多く、いわゆる「ステルス疲労」を引き起こします。このような微妙な疲労が積み重なると鬱状態に陥るリスクが高まるのです。

実は怖い、理想的な職場環境の裏側

エネルギーを使う行為には、一見ポジティブに見える要素も含まれます。素晴らしい上司や同僚に認められたいという気持ちは、モチベーションを高める一方で、オーバーワークにつながるリスクもあります。自分自身に過度なプレッシャーをかけることで疲労が蓄積されたり、高い期待値に応えようとするあまり自分自身の限界を見失いがちです。良い環境であればあるほど、自分自身の疲労やストレスレベルに気を付ける必要があります。

疲労の借金を返す:「おうち入院」とは

自宅での仕事がダラダラと続くと、疲労が蓄積します。自分の時間管理に気を付け、必要な休憩と睡眠時間を確保することが大切です。

ストレス発散には大きく2種類存在します。自分が何に癒され、エネルギーを使わずにリラックスできるのかを見つけることが重要です。

癒し系 ハシャギ系
種類
  • 休息(お昼寝)
  • 読書
  • 動物と触れ合う
  • おしゃべり
  • 森林浴
  • 音楽鑑賞、芸術鑑賞
  • おいしいもの食べる
  • スポーツ
  • 旅行
  • ライブ
  • インターネット
  • 買い物
  • ギャンブル
  • 飲み会
メリット
  • 疲れない方法
  • エネルギーを充電できる
  • 短絡的には非常に効果的
デメリット
  • 快刺激は少ない
  • エネルギーを多量に消費

癒し系の活動を数日間続けることで、心と体のエネルギーを回復できます。この「おうち入院」は、疲労の借金を返す方法として有効です。

悪化させないスキル 1:とにかく睡眠

人間のサーカディアンリズム(生体時計)に基づく平均的な睡眠時間は約8時間15分です。この時間を確保することで、パフォーマンスが維持されることが研究で示されています。逆に、6時間しか睡眠を取らないと、パフォーマンスは2日間徹夜した場合と同等に低下します。しかし驚くべきことに、1日6時間しか睡眠を取っていない人は、自分が1日8時間睡眠を取っている人と同等のパフォーマンスを出していると自覚しています。これは非常に危険な状態であり、睡眠の重要性を再認識する必要があります。

睡眠についての新しい考え方:情報過多からの脱却

1. 睡眠の質よりも自分の感じ方が重要

多くの情報があふれている今、睡眠についての「こうあるべき」が多すぎます。その結果、期待値が高くなり、実際の睡眠時間がそれに届かないとストレスが増えることがあります。

2. 熟眠感は求めない

熟睡した感じがしなくても、翌日活動できているならば、必要な睡眠は取れています。不安やストレスが高まると、眠りが浅くなることもありますが、それは体が自分を守ろうとしているサインです。

3. 昼寝も有効な睡眠時間

昼寝も全体の睡眠時間に含まれると考え、8時間近くの睡眠を目指しましょう。

4. 人それぞれ、年齢による違いも

特に年を取ると、睡眠の必要時間や質が変わることがあります。そのため、一概に「これが正しい」とは言えません。

悪化させないスキル 2:感情を吐き出す

誰かに自分の気持ちを話すこと、相談することは、重要です。エンジニアはしばしば自分一人で問題を解決しようとする傾向がありますが、鬱状態になると解決能力が低下します。その結果、極端な選択肢しか考えられなくなり、中間の選択肢を探るエネルギーがなくなります。

鬱になると相談しなくなる

鬱状態になると、不安や対人恐怖が増し、相談すること自体が負担に感じられたり、デメリットばかりが目につき、相談することのリスクが過大に評価される傾向にあります。

状態 相談する 相談しない
自殺念慮あり 26.1% 73.9%
自殺未遂経験あり 48.9% 51.1%

男性は相談が苦手

鬱や自殺の男女比を見てみましょう。女性の鬱発症率は、男性の倍であるのにも関わらず、自殺数は男性よりも少ない傾向にあります。これは女性の方が「相談」が多い傾向にあるからです。

状態 男性 女性
1 2
自殺 2.5 1

*厚生労働省| 2007年国民健康・栄養調査より

「死にたい」気持ちを、吐き出してみる

2段階、3段階の状態にある人が感じているストレスや感情は、抑え込むだけで多くのエネルギーを消耗します。そのエネルギー消耗がさらなる精神的負担となり、悪循環に陥る可能性が高いです。

相談 = 問題解決 ではなく、感情のケアです。気持ちを吐き出すことが大切なのです。

問題が全く解決しなくても、感情を吐き出すことで「ストレスのコップ」が少しでも軽くなれば、その後の行動や思考が変わる可能性があります。たとえ5%しか軽くならなくても、その5%が「動ける」違いを生むことが多いです。水が溢れそうなコップから、ちょっとでも水を捨てることで、表面張力のように「動けない」状態から「動ける」状態に変わることがあります。この小さな変化が、結果として大きな効果をもたらすことがあります。

人生を楽に生きるコツ:相談先を育てておく

相談できる人を見つけておく

元気なときから、信頼できる人を見つけておくことが重要です。信頼できる家族、友人、同僚、先輩、カウンセラーなどを見つけておきましょう。

価値観を理解しておく

相談相手の価値観を理解しておくことで、相談がスムーズに進む可能性が高まります。例えば、何でも自助努力で乗り越えてきた人に相談しても、恐らく気合を入れられるだけで、逆に傷が深まる可能性があります。日頃から「人に対する価値基準」が自分と合うのか見極めておきましょう。

相談相手は、できれば生身の人間

バーチャルな関係も有用ですが、生身の人との関係性が、特に厳しい状況で心の支えとなります。

相互支援の関係

日頃から人を助ける気持ちを持ち、行動にうつしておくと、いざ自分が相談側に回ったときも「前に助けたことがあるからな」と、相談ハードルを下げられます。

まとめ:心の不調はエネルギー不足

人間関係や仕事のトラブルが起きたとき、人間は自分の能力不足を疑ってしまいます。しかし「考え方を変えよう、何かをしよう」という発想を一旦保留し、エネルギーの回復に専念しましょう。

 

Q:カウンセリングスキルの上げ方

― ― 鬱の方から相談してもらうスキルや方法を教えてください。

A:アドバイスを控える

  •  悩んでいる人が2段階、3段階の状態にある場合、具体的なアドバイスは逆効果
  • 気力が湧かず、葛藤が増す
  • アドバイスを実行できない自分が駄目だと感じ、さらに追い詰める
  • 論理的なアドバイスよりも、その人の感情や世界観を尊重し聞いてあげる

Q:自分自身のストレスを知る方法

A:まず「不眠」に注意

  • 不眠
    • 神的な症状は自分で否定することができる場合もある
    • 不眠は否定できない明確なサイン
  • 過眠
    • 2段階のストレス状態である可能性あり
    • 他に問題がなければ良いが2段階の場合は適切な措置が必要
  • 食欲の変化
    • 食欲がなくなる場合、ストレスサインの可能性あり

Q:エンジニア特有のストレス解消法は?

― ― 過剰な要求、厳しい納期などエンジニア特有のストレスに対する解消方法はありますか?

A:仕事以外のすべてを楽にする

  • 自衛隊では過剰な要求が常にある
  • それ以外の部分(食事、お風呂、音楽隊など)でメンバーのストレスを軽減している
  • 一番の方法は、通勤時間を短縮し、その時間を有意義に使う
  • 「今の会社を辞められない」と感じたら、鬱サインの可能性あり

Q:失敗が怖くて業務に積極的になれません

A:1週間程度、業務から離れて休む

  • この感情が一時的なものなのか、長期にわたるものなのかを判断する
  • 長期の場合は、エネルギー切れのため、1週間程度、業務から離れて休む
  • 休息を取ることで、失敗に対する過度な恐怖感が減少する

Q:リモートワークで気持ちを切り替える方法

A:物理的に環境を変える

  • 心で切り替えるよりも、物理的な環境を変えることが有効
  • 仕事用スペースとプライベートスペースを分けることが理想的
  • 仕事が終わったら一旦外に出て、新鮮な空気を吸う、買い物をする
  • 業中や休憩時に音楽を聴くことで、気持ちをリセットできる
  • 香りも気分をリフレッシュできる
  • 気分転換にYouTubeや短い動画を見る
  • 気分転換を悪いことだと思わないことが大切

Q:否定から入るエンジニアが多く、つらい

― ― うまい立ち振る舞い方、気持ちの持ち方はありますか?

A:必要最低限のコミュニケーションでOK

  • エンジニアは論理的に考える傾向があり、結果的に否定から入ることが多い
  • 否定的なエンジニアに対しては、自分の感情や考えをあまり打ち明けない
  • 技術的な話題や仕事に必要な必要な最低限のやり取りだけをするように心掛ける

Q:組織で鬱の人間が増えています

― ― ダントツで優秀なエンジニアが昇進を機に鬱っぽくなり、彼の部下も立て続けに退職。組織としてどうすべきでしょうか。

A:上流で仕事量をコントロール

  • 仕事量のコントロール
    • まずは全体の仕事量を把握し、適切に分散させることが重要
  • 経営層の認識
    • 経営層がこの問題を深刻に捉え、対策を練る
  • 専門家のコンサル
    • メンタルヘルスの専門家を招き、組織全体での対策を考えることも一つの方法
  • 部下のサポート体制
    • 鬱症状を示す上司の部下に対してもサポート体制を整える必要がある
  • 休職とその後のフォロー
    • 余裕がある組織であれば、負傷者を早めに休職させる
    • 余裕がない場合は、その他のメンバーに負担がかかるため、より緊急の対策が必要
  • コミュニケーションの強化
    • 開かれたコミュニケーションを促し、メンバー同士でのサポートを強化する
ForlkwellPress ロゴ画像

フォークウェルプレス編集部

Follow

記事一覧へ

この記事はフォークウェル編集部が監修しています。編集部では、企画・執筆・編集・入稿の全工程をチェックしています。

下園壮太
下園 壮太
メンタルレスキュー協会

理事長

陸自初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。その後、自衛隊の衛生科隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、カウンセリング、コンバットストレス(惨事ストレス)対策を教育。本邦初の試みである「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして、約300件以上の自殺や事故にかかわる。 平成27年8月退職。現在はNPOメンタルレスキュー協会でクライシスカウンセリングを広めつつ、産業カウンセラー協会、県や市、企業、大学院などで、メンタルヘルス、カウンセリング、感情のケアプログラム(ストレスコントロール)などについての講演・講義・トレーニングを提供。著書50冊以上。 公式HP