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「船大工(エンジニアリング)に集中することは大事、だけど航海士の視点も必要」 石川康裕(UX/UIアーキテクト)~Forkwellエンジニア成分研究所

大学3年時、就職活動をし忘れたんです(笑)

――まずは、現在の業務内容について伺えたらと思います。

石川 現在、フリーランスで企画・コンサルと開発のプロマネ業務をしています。

企画・コンサルには3つの領域があります。

1つめがサービスデザイン。事業自体を組み立てるときに、市場におけるニーズや消費者の求めるサービスの形を一緒になってまとめていきます。

2つめがUX/UIのコンサルティング。事業やサービスは固まっているもののが、お客さんとの接点のあるところ、具体的にはアプリケーション、ウェブサイト、名刺といったタッチポイントにあるプロダクトのデザインをする上で、要件を固める作業です。固まったものをデザイナーに渡して、可能な限り良いクリエイティブを上がりやすくします。

3つめが、企画提案をプレゼンする部分のコンサルティングです。サービスをクライアントに伝えるときにあたってのスライド資料や話し方についてフィードバックをします。

プロマネ業務は、プロダクトが完成するまでの工程をフルで請け負う形です。開発体制の構築から、開発チームを率いてWBSに則り受入テストまでの全行程を管理します。

――UX/UIのコンサルには、新卒の頃から従事されていたのですか?

石川 最初からはやっていないですね。ただ、東京理科大の建築学科のデザイン・衣装系を出ているんですが、そこで学んだことがUX/UIに通じる知識がかなりありました。あとは学生時代からマーケティング、企画、プロデュースが好きでした。そうしたこともあって、試しにUX/UIをやってみたところうまくいきました。

――大学に入った当初は、建築の方面に進まれるつもりだったのでしょうか?

石川 もちろんそのつもりでした。学生時代は「三井不動産に入って商業施設をプロデュースしたい」と思っていたんです。でも就職するつもりでいたくせに、日本の新卒採用の仕組みを全く知らず、就職活動をし忘れました(笑)。

大学3年生の就活シーズンに、後輩含めて有志でギャラリーを借りて展覧会を開いたり、学生ながら内装の設計・施工案件を請け負ったり学外活動に勤しんでいました。

4年生も終わり頃になって研究室の中で「あと3ヶ月で卒業だし就活するか」みたいなことを言い始めたら、周りから「何言ってるの?もうみんな終わってるしどこも入れないよ」と言われて(笑)。

――面白いですね(笑)。

石川 ちょうど読んでた雑誌「ブレーン」の求人情報から広告制作会社のアシスタント募集に応募して、卒業前になんとか内定を頂いたんですが「これでいいのか?」と思い結局断ってしまいました。

やはり「一度は新卒採用の面接を受けてみたい!」と思って、ためしに大学3年生のフリをして就活してみたんですが、大手広告代理店の選考をバンバン通過しはじめたので、「これはいけそうだ!」ということで就職浪人になることを決めました。

入社後3ヶ月で、400万円の案件を獲得

石川 やっぱり、やりたいことは広告方面だから代理店に行こうと思い、某大手広告代理店の雑誌局の選考を進んでいたんですが、面接で業務と関係ない「お酒の席に何人美人を君なら呼べる?」という質問が出てきて「ちょっと違うな」と思って。大真面目に「自分がやりたいのは戦略立案だ」と伝えたら、向こうがどんどん引いていって(笑)見事に落とされました。

ただそのタイミングで、母がトラブルに巻き込まれスケープゴートになって失職してしまい、「母ちゃんを頼れないから働かなきゃまずいぞ」という状況になって青ざめました。

――それは大変ですね。

石川 そんな中、鹿島建設の子会社の求人票を見つけ、受けることにしました。鹿島建設の本体及びグループ会社のPRオフィサーとして、広告の企画から作成までをやるインハウスエージェンシーですね。

選考で「新築マンションのPR計画を、A3で表現しなさい」という課題があって、「施工時の仮囲いの時にこういう広告打って、竣工したらチラシを撒いて〜」といった具合に建物のライフサイクルに沿って計画を作ったところ、「時系列を持った広告提案をしたのは君だけだ」と言われて。倍率10~20倍でしたがすんなり合格できました。

――すごいですね。

石川 それで入社してすぐに、不動産プロモーション部で先輩プロデューサーについて回り、入社3ヶ月で400万円の案件を勝ち取る業績をあげることができました。

その頃、丸の内の某ビルで大規模なテナントの退去予定があり、数億円の収益減を早期にどうにかしたいという背景で、テナント募集用のツールの提案をする案件でした。まさかの新卒一年目の自分がプレゼン担当することになり、焦りましたが何とか獲得しました。

そこから、我流でプレゼンを真剣に学び始めました。

その後、虎ノ門の某ビルの入居者満足度を高めたいという相談もあり、「デジタルサイネージがいいんじゃないか」と考えて、サイネージに関わる機材の準備から撮影や脚本も書くなど、本当に全てのことをやりました。

――そちらでは何年くらい働かれたのでしょうか?

石川 1年半です。1年目で結果を出したということで、2年目から一番売り上げの良いエディトリアルデザインをする部署に移されたんです。建設の提案書は数百ページとかになるので、デザインが悪いと現場の人にとっては本当に読みにくいんですね。なのでそれをデザインするという仕事なんですが、全く面白いと思えなくて。ひたすらエディトリアルデザインと社内での印刷製本に明け暮れ、コンペ直前は三日三晩寝られない感じ。「これは続けられないな」と。

そんなわけで転職活動をしていたところ、友人がいたWEB制作会社から声がかかって移籍することになりました。最初は2年だけという話だったのですが、そこから、気付いたら取締役、副社長、社長になっていました(笑)。

3ヶ月で取りまとめたGINZA SIX案件

――そのWEB制作会社の入社時、なぜ2年だけという条件だったのでしょう?

石川 転職の動機が不純だった、というのはあります。今の会社を辞めたいというのと、友人を助けたいという感じで、会社愛があったわけではなかったので。あと、WebサイトのHTMLコーディング会社で、業界最安値を売りにしていたんですけど、肌に合わないな思って(笑)。それもあって2年と言いました。

前職では上司から「自分が知らないものを売るのは詐欺だ」と教え込まれたので、売り物についてはとにかく徹底して調べる癖がついていました。その結果、入社早々にWebサイトのマークアップのスキルから、ディレクション・設計などを独学で学習しはじめました。

――その姿勢、見習いたいです……。

石川 PhotoshopやIllustratorを使ってデザインを作り、サーバー契約してサーバーにアップロードして、などすべてイチからやりましたね。そうすることで、徐々に心からやりたい仕事をできるようになっていきました。

「最安値マークアップ」という薄利多売系の営業から、徐々に質重視にシフトできるようになり、単価もかなり上げられました。途中で電通Grに出向し、より本格的なデジタル領域のディレクションやプロデュースを学ばせてもらえた経験も大きかったです。

――現在UX/UIデザインに需要があるから特化しているというだけで、本来は企画プロデュース全般をされているんですね。

石川 そうですね。2016年にご縁があって大手通信キャリアのマイページのUI改修の提案機会が舞い込んで、「できますよ」と言い切って改修案を提示したところ見事採用されまして、自信がついてUX/UIのコンサル業務を成立させられるようになりました。

他にも記憶に鮮明な案件といえば、2017年4月にオープンしたGINZA SIX内の銀座蔦屋書店に連動させたWebアプリ開発ですね。オープンの3ヶ月前にキックオフミーティングがあり、「開店に合わせてアートのポータルサイトをつくってほしい」という要望をいただいたんですが、いかんせんリリースまで3ヶ月しかない。企画はふんわりしていて予算も組めてない。いわば重篤な状態で、競合は降りていたんですけども(笑)受けました。

最初の1.5ヶ月で企画・設計・画面ラフ制作を全部やり、アートディレクター兼デザイナー・フロントエンドエンジニア・バックエンドエンジニア・アカウントマネジャーと僕の5人体制で、ガンガン組み上げました。期間がとても短いのに、その後の要件にスケーラブルに対応できるようにしておくためにも、スクラッチでCMSを構築しました。ほぼ不眠不休の3ヶ月の末に、開店に間にあわせることができました。

――凄まじいの一言です……業務を行なう上で大事にしているモットーや言葉はありますか?

石川 先ほどお話しした、「売り物に対して十分な知識がない限り売ってはいけない」という教えを大事にしています。

あと、楽しくなくちゃやりたくないという感覚ですね。仕事は一人では完結しないので、チームみんなでアドレナリンが出るような感じで動きたいですし。

なるべく高いテンションで仕事をしたいんです。そのために、自分の仕事に「+1」を作るようにしています。次の工程の人をお客様ととらえて資材をデリバリーし、サプライズを感じてもらえることを意識しています。裏返すとワーカホリックなので、誰でも向いている働き方ではないと思うんですけど。

企画に関して言えば、クライアントの事業がプラスになるかを一番重視しています。綺麗事は言えるけど、やはり事業は「1円でも多く利益が増える」ということが重要なので、一つ一つの施策に対して「本当にこのコンポーネント追加は事業にとって有益なのか?」と考え抜きます。

――お話を伺っていると、適切な目標設定の必要性を痛感します。

石川 目の前の壁をどう壊すかに捉われるのではなく、壁の向こう側を見る意識で向かうようにしています。壁の穴を攻略するのではなくて、壁の30メートル先くらいに思いっきり鉄球を飛ばすつもりでやれば、目の前の壁も簡単に壊せるというイメージです。

中長期的にクライアントの事業が上向くのかどうかにフォーカスして、その中長期目標のひとつの手段として、目の前の課題に向き合うということですね。

――ご自身の成長のために日々行っていることはありますか?

石川 一つは、よく寝ること。最低6時間、疲れている時には9時間は寝ます。睡眠時間を削るのはやめました。もう一つは、朝に日誌を書くこと。簡単に日々の記録をつけています。項目は4つで、睡眠時間、体重、ワンミニッツメモとして心に浮かんだこと、最後にその日のToDo。メタ認知のトレーニングとして2018年2月から始めました。

エンジニアリングは専門職とはいえ、鳥の目を持つことが必要

――ここからは、石川さんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「会社愛」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。

・専門性向上 6

課題解決が使命なので、お金を頂いている以上はやるべき、それができないのであればお金を貰ってはいけない。阿川佐和子さんの書籍に「お給金をいただくからにはプロとして返さないといけない」という言葉があって、その通りだと思っています。

・仲間 10

家族と同じぐらい長い時間を過ごす、近い関係にいるのが仕事仲間だと思っています。良好な関係を築くことが、プロダクトのために重要だと思います。プロダクトやサービスが勝てるかどうかは運もあるので、風向きが悪くてもチームの雰囲気がいいと顔を上げて改善について話すことができます。

・お金 1

・事業内容 1

・働き方自由度 1

・会社愛 1

お金は通信簿なので、ルールに則り努力を重ねれば、時間はかかりますが「収益」は増加していきます。そのため重視をするのは課題ゆえにお金にはあまり注視しません。

事業内容も、市場によって変わることなので、こだわる必要はないかなと。自分自身も仕事に合わせて業態を変えているので。

働き方自由度も、きつい時はどうやってもみんなで頑張らないといけないですし、自由は勝ち取るものなので会社・組織に求めるものではないかと。

会社愛も、結果論なので。「面白いなと思ってやっていたら、たまたまその会社だった」という感じになるのが自然だと思います。

自由度も会社愛もそうですが、マネジメント層が囲い込むようなやり方はいい結果にならないと思うんです。会社を家として見たとき、亭主関白的にルールを定めて束縛をするよりも、ひたすらに居心地のいい雰囲気を目指したら、家の中に人が居つく感じのほうが長く続きます。

――最後に、キャリアに悩むエンジニアにメッセージをお願いします。

石川 エンジニアは、これからどんどん必要とされる業種なので、胸を張って良いと思います。そして、あくまでもエンジニアリングを通じてできるプロダクトは「手段」で、商売の流れの一部分なので。専門職とはいえ、鳥の目を持つことが必要だと考えます。

私が関わってきた猛烈に価値の高いエンジニア・デザイナーにはその目線があって、こういう使われ方をするからこういうのが良いよね、という考え方と議論ができる。

「この言語しか使えないし、そのフレームワークはよく知らない。来た仕事をやって給与をもらえたら良い」という姿勢ではできることが変わってくる。

僕自身も最初は要求に答えるだけの「点」の仕事しかできませんでしたが、そうした視点ができたことで仕事の質が変わり、自分の価値が上がっていったと実感しています。船大工に集中できることも大事だけど、航海士の視点も必要。それがあれば、今いる会社でもやれる仕事が変わるし、転職もうまくいくんじゃないかなと思います。

<了>

ライター:澤山大輔


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